グーグルはアジアで進化する? 中国で進む衝撃の現地化

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グーグルはアジアで進化する? 中国で進む衝撃の現地化

今年2月、中国のネット利用人口は2億2100万人を超え、米国を上回る世界最大のネット市場となった。だがこの巨大市場は、アマゾン、イーベイといった米ネット大手が軒並み苦戦、撤退した地でもある。グーグルも例外ではない。グローバル化の最大の試金石が、ここ中国だ。

北京市北西部の中関村。IT企業が集積し“中国のシリコンバレー”と呼ばれるこの地域に、グーグル中国の本部はある。中国本土、香港、台湾を合わせたグレーターチャイナ(大中華圏)の統括拠点と、エンジニア300人が働くアジア屈指の研究開発拠点を兼ねている。休憩時間にエンジニアがビリヤードなどに興じる様子は米マウンテンビューの本社と変わらない。だが、そのエンジニアの誰もが若いことに目を奪われる。カフェテリアも大学の学生食堂さながらだ。

これは中国市場に本格参入した2005年以来、全国の名門大学を巡り、優秀な大学生・院生を精力的にリクルートした成果だ。中国本部の社屋は北京大学、清華大学の2大名門大にほぼ隣接する位置で、両校のOBも多い。グーグルは北京と上海の本土2拠点を合わせても合計700人規模でしかないが、外資人材コンサルによる学生人気就職先ランキングでは、中国移動通信(チャイナモバイル)、P&Gに続く3位につけている。

「自由な環境と、世界の天才たちと働ける点に惹かれて来ました」。マイクロソフトから転職した青年エンジニアは言う。外資IT大手から若手エースが転職する例も多く、“人材のブラックホール”ぶりは中国でも変わらない。08年も200人を一挙採用する計画という。

グーグルの成長力の源泉である優秀な頭脳は順調に集まりつつある。だが、ひとたびビジネス市場に目を向けると状況は楽観できない。現在の市場シェアは26%。2年前に比べほぼ倍増した。しかし中国の検索エンジン最大手「百度(バイドゥ)」は実に6割を獲得し、市場を丸ごとのみ込む勢いである(下グラフ参照)。

巨人・グーグルを相手に、百度はなぜここまで強いのか。その原因は中国市場の特徴にある。まずユーザーが若い。中国の業界調査機関・DCCI(互聯網数据中心)によるとネット利用者の半数が19~25歳で、40代が中心の米国とは大きな差がある。また中国の若者は個人所有のパソコンではなく、学校やネットカフェなどからアクセスする。クレジットカードの所有率が低いため、電子決済もほとんど普及していない。

この環境の中、百度は音楽の無料ダウンロードサイト検索やユーザー同士がQ&A形式で情報を交換する掲示板サイトといった、「おカネを使わず、身近で楽しい情報を得たい若者」に訴求するサービスで急成長した。グーグルはこういったニーズに合わせた展開で出遅れたのに加え、当初は中国語による検索精度が低かったこともあり、「使いにくい」というイメージを中国ユーザーに与える滑り出しとなった。当然、広告主も遅々として集まらなかった。

「かつてのグーグルは、中国では十分なユーザーエクスペリエンスが提供できていなかった」。グーグル・グレーターチャイナのカイフ・リー総裁は振り返る。台湾出身の在米華人であるカイフ氏は、マイクロソフト副社長だった05年夏に中国事業統括としてグーグルに引き抜かれた。カイフ氏の移籍はIT大手からグーグルへの激しい人材流出の象徴として、中国だけでなく米国でも話題をさらった。そのカイフ氏が当初から腐心してきたのが、現地化への挑戦だ。

カイフ氏はマイクロソフト時代にも上海の研究開発拠点の代表として、中国ビジネスの要職にあった。だが現地の業界関係者によると、マイクロソフト時代のカイフ氏には中国向けの製品開発をするための人員や資金が十分に与えられず、米国からプロジェクトを引き継ぐばかりの日々に悶々としていた。


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