2018年注目のバイオベンチャー3社はここだ 創設ブームから約15年、成果が見えてきた

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国内では外傷性脳梗塞治療への適応が先行する。2016年秋から日米で自社での臨床2相を開始。国内では2019年ごろの早期承認を目指す。「課題は量産体制の整備」と森社長は言うが、すでに米国の製造受託会社CMOと体制整備を始めている。加齢黄斑変性、パーキンソン病などへの適応拡大も控えている。

開発拠点を持たず、目利きが命のシンバイオ

開発品の販売収益による営業黒字化に最も近いのがシンバイオ製薬だ。

血液がんの1つ、再発・難治性低悪性度非ホジキンリンパ腫治療薬「トレアキシン」の承認取得が2010年(販売はエーザイ)。2016年には初回治療、慢性リンパ性白血病への適応拡大、用量追加などの承認を得ている。

今のところ患者数は一万数千人と多くないが、臨床3相中の再発・難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫などへの適応拡大となれば患者数は倍以上になる。しかも患者会からの早期の承認を求める要望が厚生労働省に出されるほど期待されている。このままなら2019年ごろには営業黒字化も十分に可能なはずだった。

ところが、同社は2017年9月にトレアキシンの新剤形RTDとRI2種(液剤)の導入を決めた。RTDは病院で溶剤に溶かす作業が不要となり既存剤より扱いやすい。また、RIは投与時間を60分から10分に大幅短縮でき、さらに有望だ。単なる剤形追加なら置き換えにすぎないが、2020年で終了するはずだった実質的な市場独占権を2031年まで延長できる。これはトレアキシンのブランド価値を守る重要なカギになる。

時間の余裕が出来たので、2018年1月から懸案の経口剤治験も開始した。これで固形がんへの適応を目指す。また、RIやもう1つのパイプライン、骨髄異形成症候群治療薬「リゴセルチブ」の国際共同治験3相の症例数拡大費用なども合わせ、営業黒字化はもう少し先になりそうだ。

とはいえ、創業13年目で一時金収入なしの販売ロイヤルティベースで30億円規模(2017年度予想)にまで伸ばした秘訣はどこにあるのか。シンバイオには研究開発拠点がない。海外ですでに承認されているか、POC(安全性と有効性の確認)を獲得している医薬品を国内に導入し治験を行う。治験は病院が主体となるため、シンバイオで行うのはデータ収集と解析だ。

「世界中が研究拠点」と吉田文紀社長は笑う。アカデミア発ベンチャーとは異なり特定開発品へのこだわりはないが、収益化には目利き力がものをいう。だがそこは、世界最大のバイオベンチャー、アムジェン副社長、日本法人社長も務めた吉田社長をはじめとする選定チーム。常時世界中の開発案件に目を光らせ、がん、血液、疼痛管理の3つを柱に、新たな開発品の探索に力を注いでいる。

技術力はもちろんのこと、それを事業化へと導く独自のビジネスモデルを持つかどうかがバイオベンチャー成功の1つの分かれ目といえそうだ。今後も3社の動向から目が離せない。

小長 洋子 東洋経済 記者

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こなが ようこ / Yoko Konaga

バイオベンチャー・製薬担当。再生医療、受動喫煙問題にも関心。「バイオベンチャー列伝」シリーズ(週刊東洋経済eビジネス新書No.112、139、171、212)執筆。

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