「外国人起業家」が考える日本で成功するコツ 来日20年で日本も大きく変わったが

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しぶる上司を説得して韓国に移ったライアン氏は、代理店の入れ替えを行い、韓国子会社を韓国で最大のオフィス家具企業に育てた。後に妻となる女性にも出会い、数年後には彼女と共に東京に戻ってくる。

起業家としてのターニングポイントは、ハーマン・ミラーが販売戦略を変更した2008年にやってきた。それまで同社は、日本で直売を行っており、そのために建築家やデザイナー、プロジェクトマネジャー、物流担当者だけでなく、出荷や配送、アフターサービスを行うスタッフまで日本国内で雇っていた。これはどう考えても非生産的かつ非効率だとライアン氏は感じた。

日本の家具市場が特殊なワケ

たとえば、自動車を購入するときは、トヨタからではなく、ディーラーから買う。一方、トヨタは自動車のデザインや利便性、性能などの向上に集中している。家具事業もこれと同じだとライアン氏は考えた。1日の多くの時間を過ごすオフィスでいかに快適に仕事ができるかは、オフィス家具によるところも小さくない。「家具会社は、ただ色やサイズ、素材をコーディネートするだけでなく、本当にたくさんのことをやっている」(ライアン氏)。

日本への進出をもくろむ海外企業や起業家から相談を受けることも多いというライアン氏(筆者撮影)

そうであれば、家具会社は本来集中すべきことに力を入れるべきではないか――。そう考えたライアン氏はハーマン・ミラーが家具デザインやマーケティングに集中できるように、非主力事業を分社化。この会社、グレゴリー・ライアン社は、日本初のハーマン・ミラーの独立代理店となった。現在はセールスマン2人とゼネラルマネジャー1人を雇っており、主に欧米企業向けにオフィス家具を販売している。

だが、家具業界の競争は激しいうえ、日本市場ならではの特殊性もある。たとえば、日本は米国のようにオフィス設備や環境、家具といったものは新規雇用の際の「武器」にはなりにくい。日本で従業員が会社を選ぶ際に重視するのはむしろ歴史やブランドといったものだ。こうした国では、新規顧客を獲得したり、維持したりすることは容易ではない。今後、人口減が進む中で、競争が一段と激しくなることも予想される。

オフィス家具業界は景気の影響を受けやすい傾向にもある。経済の成長が続けば、顧客企業はオフィスを移転したり、拡張したりするため、家具需要も高まる。が、景気が低迷している時は、ビジネスは途絶えてしまう。こうした中、ライアン氏はカーペットやパーティションといった比較的安定需要の見込める商品を拡充することでリスク軽減を図っている。それでも、「膨大な注文が来る月があれば、ほとんど何もない月もある」という。

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