健保組合で赤字が続出!! 高齢者医療制度が直撃

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健保連全体で見た別途積立金額は2・8兆円と巨額だが、その“蓄財量”は健保ごとに大幅な開きがあるとみられる。新制度導入が大きく影響し、蓄えのわずかな健保ほど厳しい運営を強いられることになる。政管健保の保険料率8・2%と比べて、健保連は平均7・39%と低い。組合によっては料率引き上げで収支改善を図る余地はある。グループ会社24万人が加入するNECの健康保険組合は、3年連続で保険料率を引き上げて08年度は6・7%。しかし同年度の予算案は65億円の経常赤字で、収支不足は70億円の積立金取り崩しで補う。これまでも同社は、業績不振の時期に会社経費の負担増になる料率改定を見送り、積立金に頼ってきた。だが「今後も毎年計画的に料率を上げないと財政的に厳しい」(NECの高橋英信勤労マネージャー)。大手とはいえ過去の蓄財に頼り続けられる状況でもない。

また、日産自動車の健保でも拠出負担増加が響き、08年度の経常収支は95億円の赤字見込み。前年度の繰越金と積立金で合計100億円を繰り入れる。運営環境の変化に直面し、09年度の保険料率引き上げ(現状5・52%)を見据え、財政検討委員会を立ち上げた。8月に行われた第1回委員会では、7%台の保険料率をベースに3種類のプランを作成し、09年度以降をシミュレーションしている。料率をどの水準で妥結するかは目下の最重要課題だ。

駆け込み先である政管健保も赤字

料率改定の余地を残す健保はまだいい。健保連の中にはすでに保険料率8・2%を超す組合が253あり、政管健保への駆け込み予備軍ともいえる。しかし加入者3600万人を抱える政管健保も盤石ではない。07年度の収支は1390億円の赤字で、今年度も赤字が続く見通し。健保連の積立金に相当する事業運営安定資金残高(安定資金)は今年度末で1800億円となる。国は09年度に保険料率を8・3%へ引き上げても収支は赤字で、安定資金が枯渇する見通しを出しており、保険料率の引き上げは必至。

さらに政管健保は社会保険庁改革の一環で、10月から全国健康保険協会として公法人化する。今後の料率改定幅は流動的で「協会の運営動向を見たい」との声もあり、移管を見送った健保もあるようだ。「高齢化を受けて相互扶助の考えで拠出する理屈はわかる。だが組合運営の改善に努めても、拠出金分でかき消されてしまうと無力感すら覚える」(健保関係者)と心情は複雑だ。企業はどこまで自主運営を続けるか。悩みは深い。


(井下健吾 撮影:尾形文繁 =週刊東洋経済)
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