ビットコインは「物々交換の時代」を切り拓く ブロックチェーン後の未来の経済とは?

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ここで改めて、ブロックチェーンとは何なのかという最初の議論に戻ると、著者はその本質を、「特定の主体がシステムの運用を担うことのない」ように、「空中に約束を固定すること」だと言っている。つまり、誰にも改ざんできず、特定の誰にも管理されていない証拠を、誰にでも見ることができるような形で残す方法ということである。

従って、ブロックチェーンの対象は貨幣だけに限らず、絵画、ダイヤモンド、土地、建物や自動車のように、消費されてなくなってしまうもの以外の、広い意味での公共財としての性質があるものなら何でも対象になり得るのだと言う。

シェアリングエコノミーの発達

貨幣の不足や、そもそも商品価値がないと思い込まれて使われていない資産や、人間の能力や時間を市場化するシェアリングエコノミーの台頭は、信用システムの一環として捉えられる。例えば、Airbnbのように空き部屋を貸し出したり、Uberのように自分の運転能力をサービスに転換したりする仕組みである。

シェアリングエコノミーが発達していくと、人々はリソースを融通し合っていくので、貨幣が使われなくなり、課税すべき経済活動が縮退していくことになる。長期的には税収が減ることで国家の力が衰退し、公共を担う方法に変化が生じ、恐らくはシェアリングエコノミーが公共の大きな部分を担っていくことになるだろうと言う。

『信用の新世紀 ブロックチェーン後の未来』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

ここに自分なりの解釈を加えれば、インターネットの発達と、それを基盤とするブロックチェーン技術、更にそこから生まれるシェアリングエコノミーといった新しい公共の考え方は、経済学者の宇沢弘文が提唱した、コモンズとしての「社会的共通資本」に呼応するものであり、ここにこれからの資本主義経済のブレークスルーの可能性が見いだせるように思う。

このように、本書を通じて、インターネットの専門家で社会の研究者でもある著者は、なぜ貨幣の力が弱まっていくと言えるのか、貨幣の力が弱まり信用が本来の姿を現す時、一体どんな社会が現れるのかを、ビットコインの中核技術であるブロックチェーンの仕組みを解説しながら、しかもそれだけに止まらず、実際に起こるかも知れない近未来の社会の姿として見せてくれている。

今、日本でビットコインバブルが起きていると言われる中、冷静にブロックチェーンの技術的課題と向き合い、新時代の経済システム像を展望する本書は、ビジネスマンであれば是非読んでおきたい一冊である。

堀内 勉 多摩大学社会的投資研究所教授・副所長、HONZ

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ほりうち つとむ / Tsutomu Horiuchi

外資系証券を経て大手不動産会社でCFOも務めた人物。自ら資本主義の教養学公開講座を主催するほど経済・ファイナンス分野に明るい一方で、科学や芸術分野にも精通し、読書のストライクゾーンは幅広い。

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