「オプジーボ」が厚労省から標的にされるワケ 1年前の大幅値下げでは終わらない

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しかし、オプジーボの受難はこれで終わりそうにない。さらなる値下げが有力視されているのだ。UBS証券の関篤史アナリストは「オプジーボは現行価格に比べ25%程度の引き下げを予想している」と話す。

追加引き下げの根拠になりそうなのが、外国平均価格調整制度だ。新薬の薬価改定に際して、米英独仏4カ国の医薬品価格を参照し調整するもの。

半額になったとはいえ、日本におけるオプジーボの値段は欧州に比べまだ高い。通常薬の価格が高いといわれる米国とはほぼ同列だが、薬価の厳しい英国と比べればまだ倍以上の価格差がある。今後欧州諸国を1つのベンチマークに値下げになるのではないかとみられている。

さらに2019年度に本格実施が予想される「費用対効果」の影響も気になるところだ。厚労省は今回の改革に、健康保険などから支払われる薬の費用に見合う効果があるのかを検証し、見合わない薬に関してはその価格を引き下げるというルールを盛り込んだ。オプジーボもすでにその試行的導入対象品の1つに指定されている。

小野薬品社内からは安堵する声も

2017年11月の中間決算会見で、小野薬品の相良暁社長は「オプジーボの価格がどうなるかはまだわからない」と発言しつつも、薬価制度改革の流れで、オプジーボの価格下落をもたらす可能性のある要因の1つとして、この費用対効果の影響を否定していない。

ただ、小野薬品にとってオプジーボが業績の牽引役であることに変わりない。今2018年3月期は、オプジーボの価格が半値になったために営業利益は前期比3割近い減益を見込むが、それでも利益額は500億円水準を維持する見込み。オプジーボ効果が現れる前のどん底期の2015年3月期の営業利益147億円とは雲泥の差だ。

むしろ小野薬品の社内からは「今回の抜本改革でようやく国内価格が打ち留めになる」と安堵する声も聞かれる。突然の制度見直しなど、医薬品メーカーにとって日本の薬価政策は予見性がないと評判が悪いが、「ことオプジーボに限って言えば、これからは(価格の)予見性が上がる」というのだ。

小野薬品が強気ともいえる姿勢を維持できるのは、価格下落をカバーできるほどの数量増を見込めるからだ。だが、新薬開発はそう簡単ではない。

そもそも難度の高い稀少疾患に開発対象が移り、バイオ抗がん剤・再生医療など開発コストがかさむ傾向は強まっている。このままでは医薬品メーカーが日本では薬を開発せず、市場規模が大きく予見性の高い米国など海外をより優先することにつながりかねない。

患者のためになる画期的新薬を日本から生み出しつつ、いかに持続的な医療財政を保つか。オプジーボは、この難しい二律背反に対する解が見つかっていない日本の医薬開発の実状を映し出す鏡になっている。

大西 富士男 東洋経済 記者

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おおにし ふじお / Fujio Onishi

医薬品業界を担当。自動車メーカーを経て、1990年東洋経済新報社入社。『会社四季報』『週刊東洋経済』編集部、ゼネコン、自動車、保険、繊維、商社、石油エネルギーなどの業界担当を歴任。

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