(第27回)近現代日本人数学者列伝~岡潔~(後編)

桜井進

●「私にはいまの教育が心配でならないのである。」

 こう語る数学者こそ岡潔でした。複素関数論とは複素数を変数とする関数のことです。初等関数や代数関数を含む多くの関数は、複素変数の関数と考えることによりより深い理解が得られることが19世紀にコーシー、リーマン、ワイエルシュトラスによって考えだされました。これらは変数が一つだけの理論でした。変数が二つ以上の多変数の理論は1変数と大きく異なる様相を持ち、本質的な研究は20世紀になって行われました。この様子を簡単に述べてみます。多変数の場合でも1変数のときのように微分できることは問題はないのです。この1変数複素関数が生息する世界がリーマン面とよばれるものです。では2変数以上の微分できる複素関数が生息する世界はいかに?というのが実は大問題なのです。それは岡潔のために20世紀まで持ち越された難問だったと言えます。

 岡はフランス留学によって多変数複素関数論を研究テーマとしました。難しいがゆえに研究する価値があると見込んだのはよかったのですが、岡は何年もその問題の本質をつかめずにいたのです。

 私は一九三二年に帰国して広島の大学に奉職した。問題を決めてから四年間、それについていろいろ考えてみたが、どうしても、どう手をつけて行ってよいかわからない。学校における私の評判はだんだん悪くなっていった。私が少しも研究を発表しないし、講義も少しもまじめにやらないからである。学生に一度ストライキされたことさえある。しかし、私はどうしても力を分散させる気にはなれなかったのである。
岡潔著『日本のこころ』
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