テレビ局の「働き方改革」は進んでいるのか 電通事件を報じるメディア側も改革が必要だ

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そのほか、人事関連部署が働き方に関する社員向けセミナーを実施したり、現場の上長による管理もより徹底したりしている。

こうしたことで、2017年4~9月期の月平均残業時間は37時間34分と、前年同期の41時間08分から削減された。TBSのある社員は「昔と比べれば働き方はずいぶん状況は変わった。有休も取りやすくなっている」と語る。

テレ東は本社移転で業務効率化

本社移転の効果が表れたのがテレビ東京だ。同社は2016年夏に本社を神谷町から六本木3丁目に移転。このとき、分散していた複数の拠点を集約した。

今2018年3月期は働き方改革の一環で、派遣社員や嘱託社員を増やすため費用を積み増す計画だった。ただ、社員が新本社に慣れてくると、拠点を集約した効果は同社の予想以上だった。残業削減の取り組みもあり、人件費は想定よりも低い伸びにとどまっている。

フジテレビでは専門業務型裁量労働制の対象を2017年12月に拡大したばかり。以前は制作現場の社員が中心だったが、映画のディレクターやセットのデザイナー、イベント、ライツ、アニメ関連などにも広げた。

日本テレビも社内プロジェクトチームを設置し、特に制作現場の社員向けに、会議や作業時間の見直しの徹底、休暇取得推進などの施策を講じている。

テレビ朝日は勤務時間ルールの厳守を徹底している(撮影:尾形文繁)

局員の過労死が表面化したNHKは、2017年12月に「働き方改革宣言」を発表し、2018年度からスタジオ収録を原則22時に終了することなどを掲げた。報道の現場では、自動で定型原稿を作成するシステムの導入も検討している。

各局とも改善に取り組む中、現場社員からは厳しい声も聞かれる。全国キー局でスポーツニュースを担当するディレクターの社員は「残業200~300時間は当たり前だった。体調を崩して入院する同僚も多かった」としたうえで、「会社はディレクターを増やすなどの対策も講じているが、最後まで自分でやりたいという気持ちもあり、仕事を分けるのは難しい。頑張りたい人を働き方改革で縛ってしまうのは、かわいそう」と語る。

一方、営業を担当する社員は社内の業務だけでは測れない忙しさもある。「平日はほぼ毎晩クライアントとの会食が入っている。学生時代よりも酒量はだいぶ多い」と話す。酒の席も仕事における交渉の場とすれば、会社はこちらも把握する必要がありそうだ。

ちなみに、以前は毎日のようにタクシー帰りでも会社からは何も言われなかったが、最近では「終電までに会食を終わらせて帰るように言われている」という。

現状は各局とも、上長の指導を強めることで残業を抑制したり、有休の取得率を向上させたりしているのが主な取り組みといえる。ただ、民放首脳が「収録が始まると徹夜になることも多い。業務が特殊なため、メリハリをどうつけるか苦労している」と打ち明けるように、働き方そのものの改革には至っていない。

今後は制作現場を中心に抜本的な改革ができるのか、そして社外スタッフを含め、業界全体で長時間労働の意識を変え、仕事のやり方を見直せるのかが焦点になりそうだ。

田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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