プログラミング教育「必修化」に死角はないか 創造性を拡げるのはプログラミングではない

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文部科学省はプログラミング教育を通じ、言語ではなく論理的思考を学ばせると説明しているのですが、プログラミングができたからといって論理的思考が身につくわけではありません。それにプログラミング教育は本来、子どもの創造性を伸ばすために実施されるべきです。

また、教育現場で利用される見込みがある「スクラッチ」をはじめとした言語ベースのツールは、「大人が使うプログラミング言語を子ども用に優しくした」だけです。文字と言語の抽象化の概念が理解できるようになってやっと使えるものであり、小学校低学年や未就学児には難しいでしょう。

これではかえって、子どもをプログラミングから遠ざけてしまう可能性すらあります。子どもに学ぶ意欲があっても、プログラミング嫌いの子どもを増やして社会的なリターンが少なくなってしまっては逆効果です。

言語ベースのプログラミングが悪いわけではありませんが、子どもが勉強する楽しさを持ち続けるためには、現状のプログラミング教育では不十分でしょう。プログラミングを勉強させるのではなく、言語を使わず直感的な操作だけで自発的に作品をつくり出したくなる環境こそ、これからの子どもには必要です。

クリエイターが世界を動かす時代

世界中にクリエイターが増えることで、世の中はどんどん楽しく快適になります。もちろん、すべての大人がアート作品をつくり出すようなクリエイターである必要はありませんが、現在はビジネスを新しくつくり出す人にも創造性が求められる時代です。

世界時価総額ランキングでトップ5に入る企業は、数十年前にはまだ存在すらしていないか、全く知られていませんでした。つまり、新しく仕事をつくり出したクリエイターたちが、現在の世界をリードしているのです。今の子どもが大人になる数十年後には、もっとクリエイターが活躍する社会になっていることでしょう。創造性の向上は、数十年後の社会を生き抜くために必要なスキルを身につけることに他ならないのです。

「デジタルネイティブ」と呼ばれる世代が今後の人生をクリエイティブに生きるためには、子どもが勉強を楽しいと思える環境を整えることが重要になってきます。子どもの知性と感性を刺激すれば、創造性はもっともっと拡張できるのではないでしょうか。

中村 俊介 しくみデザイン 代表

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なかむら しゅんすけ / Shunsuke Nakamura

株式会社しくみデザイン代表、クリエイティブ教育ラボ所長。名古屋大学建築学科卒業後、九州芸術工科大学(現九州大学)にて博士号(芸術工学)を取得。参加型サイネージや、ライブコンサートのリアルタイム映像演出等、数々の日本初を手がける。Intel Perceptual Computing Challengeグランプリ(アメリカ)、Sónar+D Startup Competition グランプリ(スペイン)、WIRED Audi INNOVATION AWARD(日本)など、国内外での受賞多数。

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