サッカーの岡田武史が「FC今治」で秘める野望 元日本代表監督は、現在何をしているのか

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ここまでは岡田武史個人の信用(クレジット)でやってきた。

しかし、これからはそうはいかない。

来年の予算は約7億円、従業員数はコーチ、契約コーチなどを含むと50人規模になる。そうなると岡田氏の個人決裁では回らなくなる。今まではスタートアップで割り切って、深夜までスタッフ達と働いていた。会社として、機能するには労務管理もしていかなければいけない。そして、第2創業期を迎えたFC今治は、経営人材をビズリーチのサイトで公募している。

「うちは皆、安定した一流企業を辞めて、給料が下がるのに集まってきてくれた。心意気は持っているメンバーだけど、マネジメント経験がある人材がいない。だから、サッカー好きというよりは、優秀なマネジメントができて、創業期を経験しているような人材がどうしてもほしい。現在は執行役員会があって、その下にクラブ事業本部とフットボール事業本部があります。このクラブ事業本部長を兼務した執行役員を探しています」

サッカーだけにとどまらない事業構想

健康とスポーツがテーマの複合型施設をつくるという「複合型スマートスタジアム構想」や今治地域全体を巻き込んだサッカー選手の育成事業「今治モデル」など、スポーツビジネスの枠にとどまらない事業構想を掲げている。

「複合型スマートスタジアム構想」では、 国内トップクラスのトレーニング設備をはじめ、大学と連携した医療機関や宿泊施設などを整備することで、世界で戦える強いチームを育成するだけでなく、世界中からトップアスリートが集まる環境づくりを目指している。

このような一連の取り組みにより、今治を国内はもとより、世界中から人が集まるスポーツタウンへと育てる目論みだ。今治の自然を生かした研修・教育プログラムの実施や、中国と香港の提携チームへの指導者の派遣、アジア企業との提携の可能性などもあり、今後も新規事業を立ち上げていく。

1997年11月17日、ジョホールバルの決戦で日本代表を悲願のワールドカップに導いていなかったら語れなかった思いがそこにはあった。

この20年間、世界に羽ばたいた日本人サッカー選手を何人も指導してきた。そんな指導者だからこそ、語れるアスリートとビジネスマンが飛躍していく共通項がある。

「これだけ変化が速い世の中で、保守的な思考、行動では生き残っていけないと思う。常に勇気を持ってチャレンジして、失敗してもまた立ち上がっていくような人間。サッカーでも同じで現状に満足したら終わりなので、変化を怖れず、リスクを冒してチャレンジできることが、やっぱり大事だと思います」

”岡田さん、僕はね、スポーツから日本の社会を変えたいんです”

今は亡き、親友の平尾誠二氏から受けた覚悟のバトン。

岡田武史が今治という町に種をまき、水をやり続け、やがて生態系となって、受け継がれていくだろう。

(文中一部敬称略)

池田 鉄平 ライター・編集者

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いけだ てっぺい / Teppei Ikeda

Jリーグ、国内、外資系のスポーツメーカー勤務を経て、ウェブメディアを中心に活動。音楽一家で育ち、アーティストとしてインディーズでアルバムリリースも経験。スポーツ、音楽、エンタメを中心に取材活動を行っている。

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