北朝鮮は制裁を強化しても笑い続けている 制裁強化が体制強化につながっている事情

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これは内部資源の動員による公式経済部門の正常化という20年前の追憶、すなわち平壌祝典を「成功例」と考えていた北朝鮮指導部の判断が誤っていたことを意味する。

この事件を契機に、金党委員長は「虚偽の報告を絶対に許さない」と強弁し、それ以降、彼の恐怖政治が増長する契機となった。これにより、北朝鮮指導部は実質的な経済状況をきちんと認識したというよりは、金正恩へと続く後継体制の安定化という政治的目的を優先させたということだ。 

2011年12月に急死した金総書記から権力を受け継いだ金正恩政権は、当初から多様で大規模な建設事業を進めてきた。代表的な建設事業は、北朝鮮東部・江原(カンウォン)道にある馬息嶺(マシンリョン)スキー場建設だった。2013年12月31日、北朝鮮は元山(ウォンサン)市馬息嶺にスキー場を建設したことを発表し、これは金正恩が建設の指示からわずか1年でオープンさせたとアピールした。

北朝鮮なら、通常10年はかかる大きな建設事業だった。無理とされたスピードでスキー場を建設した理由を正確に知ることはできないが、北朝鮮当局者の一部が平昌(ピョンチャン)冬期五輪と馬息嶺スキー場との連携に言及していたことを考えると、北朝鮮の意図を推測できる。

金正日的な慣行が繰り返されてきた

平昌の冬季五輪を見据えたものという単純な理由であるかもしれないが、1989年の平壌祝典準備当時の状況、すなわち南北間の体制競争と国内資源動員という観点から見ると、金正日的な慣行が繰り返されていることがわかる。

馬息嶺スキー場建設のための各種資材調達は、国家財政から支出されたのではなく、各機関別に役割分担をさせた。各機関は物資調達のために、それぞれ抱えている鉱山や工場・企業所などで生産された物資を輸出し、スキー場に必要な物資を調達した。馬息嶺スキー場建設は、非公式経済部門の財源を引き出し、公式経済部門を正常なものにするためのシグナルだったといえる。 

金正恩政権下での大規模建設事業は今でも続けられている。2015年に完成した未来科学者通りでは高層マンションがそびえ立ち、各種便宜施設や娯楽施設、プールなどが作られた。これらも外国資本を導入したり、市場の資金をかき集めて建設されたものと思われる。

2016年の平壌市・黎明通り建設では、本格的に市場の資金を受け入れ、黎明通りに建設されたマンションに個人資金を投入した「トンジュ」と呼ばれる富裕層が、マンションの分譲権を受け取れるように、個人資金の投資を許容する法規まで導入している。

一方、2010年から北朝鮮は石炭の輸出を本格化させた。北朝鮮の対外貿易は計画に沿って運営されるため、自由に貿易量を調整できない仕組みを持つ。だが、この年から北朝鮮の対外貿易は急増した。主に中国との貿易取引が増加し、2009年に比べ2倍近く増えた。貿易の増加をリードした品目は石炭だ。特に中国への石炭輸出が目立つが、これは石炭輸出に対する貿易計画を外部に開放したことを意味する。 

結果、中国資本を積極的に誘致した。この頃、平壌市内の通勤・退勤時間には交通渋滞が発生するほど、自動車の数が増加した。中国企業との合営事業で北朝鮮側は中国側に自動車を要求したためだ。その数を見れば、どれほど多くの中国企業が北朝鮮に投資したのかを間接的に理解できる。 

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