「乳房と別れを告げた女性」が選んだ生き方 幸せを手に入れた矢先の「乳がん宣告」

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川崎:そのあたりが難しくって、一口に「乳がん」と言っても、とにかくみんな症状が違うんですよ。他人の経験が参考にできないこともいっぱいある。そこは本を出版するときに非常に気を使いました。

「こうやったら治る」みたいな本もサイトもいっぱいありますよね(笑)。やはり自分のがんは、ちゃんと検査してもらって、「今の医学ではこれが統計的に成功している」「このがんはこの治療で寛解した人が何%いる」といった客観的な数字を指針にしていました。

:民間療法に行く人も多いですからね。

「次の娘の誕生日にいないかもしれない」

川崎:がんを発表してから、「検診しましょう」と叫ぶと、「◯◯でがんが消えた」といった記事のリンクを送ってくる人がたくさんいるんですよ。いろんなお水を勧められたり、「◯◯を食べろ」と言われたり。

辻 直子(つじ なおこ)/セルポートクリニック横浜院長。形成外科専門医。1998年信州大学医学部卒業後、東京大学医学部付属病院形成外科に入局。福島県立医科大学付属病院形成外科などを経て、2006年杏林大学医学部付属病院形成外科助教を務めた後、2011年から現職(撮影:尾形文繁)

:まあ、“健康食品”としてはいいものもあるかもしれないですけど、スタンダードな治療をせずに、それだけに頼るのは危険ですね。

――乳がんによって生き方が変わったということはありますか。

川崎:いや、ほんとに日常的というか、私の場合の乳がんは痛みもないし、抗がん剤をやってるわけじゃないから副作用があるわけでもない。逆に、つわりのほうがつらかったぐらいで、何も不自由がない。それにもう40代ということもありますし、「まあ病気にもなる年だよな」と思ったくらいで、「なんで私が?」というのは一切ありませんでした。

:潔い(笑)。

川崎:おばが乳がんを患ったことがあり、子どものときに手術跡を見たことがあったんですが、えぐるように取ってあって、子どもながらに結構ショックだったんですね。ところが、自分の時は外科手術と同時に乳房再建の事前処置をしてくれる病院だったので、非常にいいな、合理的だな、と。

術後、傷はさすがにすごかったですけど、なんとなく膨らみはあったので、おばのときのようなショックもありませんでした。ただ、私の場合、ホルモン治療をしなければならず、そうすると体重が増えやすい。だけど「太ると再発の可能性が高くなる」と言われてまして。

かといって、食べないダイエットをすると免疫も下がっちゃうので、運動するしかない。今はウォーキングをして、ジムにも週2で通っています。運動なんか大っ嫌いだったのに、われながら大きな変化だと思います。

――人生観やものの考え方に変化はありますか。

川崎:毎日違う仕事をして、違う刺激を得る生き方をよしとしてたんですけど、生存率だの何だのという話を最初に聞いたときは、「あっ、もしかしたら次の娘たちの誕生日にいないかもしれない」と思いました。今日と同じ明日、今日と同じ来年が来てほしいと思ったのは、今までの私と180度違う考え方だと思います。

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