トランプ外交が「北朝鮮の思惑通り」な理由 韓国の「北朝鮮研究」第一人者に聞く

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ムーギー:怖いのは彼がガチで狂人だったときです。たとえば、ロシアゲートで追い詰められて、国内不安を海外に向けるために北を攻撃、みたいなシナリオはありうるのでしょうか?

羅教授:ない。アメリカは軍の幹部がしっかりしている。

これはしっかりした大国はどこでもそうなのだが、仮に政治指導者が戦争を決意しても、軍の高官が実質的に止める機能が働いている。先日も、米軍高官がトランプの戦争指示が不適切なら従わないと公言した。

たとえば昔のキューバ危機も、まるでケネディ大統領がヒーローかのように伝えられているが、実際はそうでもない。実際はケネディ大統領が、危機を高めるようなことをやってしまった。

当時のソ連にしても、実は核攻撃の命令にまで及んだのだが、ソ連の軍幹部がその実行を食い止めた。軍人だからこそ、その戦争の危険をよくわかっており、大統領の一存でなんでもできる、という状態ではない。

北の指導部にとっての脅威は国内にある

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ムーギー:そうだったんですか、私もてっきりケネディ大統領の手柄だと思っていました。

では、最後にうかがいます。アメリカが結局は北を攻撃することはなく、昨今の中国が加わって厳しくなった制裁が経済を圧迫する中、今後北朝鮮に対してはどのように臨むのがいいのでしょうか。

羅教授:北の指導部にとっての脅威は、国外ではなく国内にあることを忘れてはならない。

韓国側から風船を飛ばし、北と南の実態を知らせる情報と5ドル札を国内に送り届けるなどの民間団体の行動を、北の指導部は非常に嫌がる。韓国ドラマを見たら処刑されるほど、情報流入に敏感になっている。間違っても北の国民に、“外国は脅威で、将軍様が守ってくれている”と思わせてはならない。

むしろ、“海外での生活はこんなによくて、他の国の政府が我々をこれほど助けてくれているのに、自国の政府は何だ!”と国内からの蜂起を助けなければならない。

ムーギー・キム 『最強の働き方』『一流の育て方』著者

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Moogwi Kim

慶應義塾大学総合政策学部卒業。INSEADにてMBA取得。大学卒業後、外資系金融機関の投資銀行部門にて、日本企業の上場および資金調達に従事。その後、大手コンサルティングファームにて企業の戦略立案を担当し、多くの国際的なコンサルティングプロジェクトに参画。2005年より外資系資産運用会社にてバイサイドアナリストとして株式調査業務を担当した後、香港に移住してプライベート・エクイティ・ファンドへの投資業務に転身。英語・中国語・韓国語・日本語を操る。著書に『世界中のエリートの働き方を1冊にまとめてみた』と『一流の育て方』(母親であるミセス・パンプキンとの共著)など。『最強の働き方』の感想は著者公式サイトまで。

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