6割強の会社が「法人税」を納めていない本質 中小企業の節税・決算操作は行き過ぎている

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これは法人税を納める中小企業が極端に少ないという異常な状況であり、法人税の空洞化を裏付けている。

解決されぬままの「二重控除」

しかし、法人としての利益をそっくり社長や役員の給与にして決算を赤字化するなどの中小企業の法人税逃れには、税制上の不備が多いのも事実である。古くから指摘されているのが「給与所得控除の二重控除」の問題だ。これは、給与所得控除分を含む社長(役員)の給与は法人税の段階で経費として控除されるのに、さらに社長(役員)の給与にかかる所得税の段階で再び給与所得控除が適用され、「二重に控除がなされている」ということだ。

この問題については、2006年度に新会社法が施行され、資本金1円および取締役1人でも会社設立ができるようになったとき、1人オーナー会社課税制度(特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入制度)が創設されたことが思い起こされる。この制度は、「資本金1円で社長1人の会社を設立し、利益をそっくり社長の給与にする節税が横行するのではないか」という懸念に対応して、給与所得控除の二重控除を禁ずる趣旨のものだった。

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しかし、この制度は、「二重控除を是正する手法として適正か」という議論の高まりにより、2010年度税制改正で廃止された。

このとき、「二重控除問題を解消するための抜本的措置を2011年度改正で講じる」とされ、2013年度以降、給与所得控除に上限額が設けられ、その額は245万円、230万円、220万円と段階的に引き下げられてきた。2018年度税制改正では、一律に10万円減らされ、上限は「年収850万円超で年195万円」とされた。

このように、給与所得控除の相次ぐ引き下げで、収入が多い給与所得者の増税が続いているが、肝心の中小企業経営者たちの二重控除の問題については、ほとんど議論がなされてこなかった。

2018年度税制改正における法人税の分野では、こうした根本的な問題についての突っ込んだ議論が期待されていた。しかし、中小企業が自民党の最大の支持基盤であるためか、経営者たちの増税につながりかねないこの問題についての議論がなされることはなく、内容の乏しいもので終わった。

梶原 一義 ジャーナリスト

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かじはら かずよし / Kazuyoshi Kajihara

1953年生まれ、北九州市若松区出身。早稲田大学商学部を卒業後、ダイヤモンド社に入社。『週刊ダイヤモンド』記者としてマクロ経済や中小企業、総合商社、化学・医薬品業界などを担当。以後、各種経営情報誌や単行本などの編集に従事。

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