“格安”でリーマンのノウハウを手に入れた野村のしたたか戦略

“格安”でリーマンのノウハウを手に入れた野村のしたたか戦略

やはり、"ハコ"そのものに魅力はなかった。

野村ホールディングスは22日、経営破綻した米国証券大手リーマン・ブラザーズの日本をはじめとするアジア・太平洋地域部門で働く3000人超のリーマングループ従業員を、野村グループで雇い入れると発表した。民事再生手続き中のリーマン日本法人をはじめ、破綻によって生じた負債を引き継がずに、証券会社を運営していくうえで要となる人材を一括で引き受けて、野村グループの収益基盤を強化する。日本を含むアジア地域の金融市場における雇用不安の緩和にもつながりそうだ。

野村は、米国リーマンの主要事業を買収する英銀行大手バークレーズなどとも、リーマンのアジア太平洋地域部門の継承を争ったもようだが、条件面で野村に軍配が上がったようだ。同欧州部門についての継承争いは続いているもようだ。

野村がリーマングループ社員の雇用を継承する地域は、日本のほかインド、韓国、台湾、シンガポール、香港、中国、オーストラリアなど。ITシステムなど関連する事業インフラも、バークレーズと調整したうえで、引き継ぐ方針。一方、トレーディングなどの資産と負債は継承しない。「リーマン」ブランドの扱いについては、今後、検討する。

リーマンの日本法人、リーマン・ブラザーズ証券など日本のリーマングループ会社4社は19日、東京地裁から民事再生手続きの開始決定を受けた。リーマン日本法人の桂木明夫社長は「速やかにスポンサーを選びたい」としていたが、結局、日本の4社だけで総額約4兆7000億円にも上る負債を引き受けるスポンサーは現れなかったことになる。

「週刊東洋経済」が9月27日号記事で指摘したように、証券会社には生産設備などの資産が乏しく、言ってみれば人材がすべてだ。野村が今回、リーマングループ社員の雇用を引き継ぐいずれの地域も、野村グループとしてはすでに現地に進出ずみなものの、野村は近年、アジアビジネスの強化を経営課題に掲げている。それを、兆円単位の負債を抱えずに、大がかりな投資もなく、リーマンの各地における事業ノウハウを獲得して野村のアジア事業に吸収するのである。野村の大胆かつしたたかな戦略といえる。

野村は今年、劣後債と劣後ローンで6000億円を調達、約2兆円の自己資本を抱え、欧米金融機関と比べて財務基盤は強固だ。しかも、サブプライム問題に関連してRMBS(住宅ローン担保証券)をいち早く処分。米国の金融保証会社(モノライン)への引当金処理も進め、一連の金融混乱に関連した損失処理では、欧米金融機関の先を行く。

野村グループには「落ちるナイフを拾うな」という格言があるそうだ。米国FRB(連邦制度準備理事会)が21日夜(日本時間22日朝)に、銀行持ち株会社への移行を認可した米国証券1位のゴールドマン・サックスと同2位のモルガン・スタンレーはまだ「落ちるナイフ」。しかし、「リーマンは落ちたナイフ」(野村幹部)と判断したようだ。9000億円にも上る巨額出資でモルガン株の取得を決めた三菱UFJフィナンシャル・グループとは対照的といえる。

しかしながら、米国発の金融不安が根本解決を見せていない中、証券会社の経営環境は厳しさを増しており、3000人もの雇用を抱えるリスクもある。「リーマンとの間でこのような機会を持てたことは非常に喜ばしい」とコメントした野村ホールディングスの渡部賢一社長兼CEOにとっては、新たに雇用するリーマングループ従業員の力を、野村グループに融合させることが課題となる。
(武政秀明=東洋経済オンライン)

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