「年収900万円家族」は一歩間違えば破綻する 自分のことを「高給取り」だと思っていないか

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平均年収が400万円の今の時代、年収900万円以上と聞くと、さぞかし、貯蓄もたくさんあると思いますよね。しかし、聞いてみると、E男さん一家の貯蓄額は300万円を超えたくらいでした。これでは7000万円のマンション購入は、無謀な話です。

実際、こうした家計は、珍しいことではありません。それどころか、金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査」によると、年収900万円どころか年収1000万円の家庭でも約1割がなんと「貯蓄ゼロ」なのです。どうして、こういうことになるのでしょうか。

先ほど、比較的高収入の人に見られる傾向として、家も教育も車も「高給取り意識」が反映した選択になっていると言いましたが、大きい買い物だけではなく日常の生活支出にも、この「高給取り意識」が反映されています。

どう違うのでしょうか。たとえば、日常の買い物なら同じスーパーでも成城石井に、衣類・バッグ・靴なら、百貨店などで「衝動買い調達」(割引率の高いファミリーセールは活用せず)、飲料水用にウォーターサーバーを設置し、こだわりの電化製品を活用するなど、平均的な生活をしている人たちの家計に比べると、全体的にワンランク上の買い物をする傾向にあります。

「年収900万=実際は650万」、高コスト体質を見直す

実は、この「普段の高コスト体質」こそが問題なのです。ほとんどの買い物において単価が高いので、結果的に金額が嵩んでしまうというワケです。「年収が高い割に貯蓄がない」という人の多くは、ここに原因があるケースが多いようです。

しかも、「年収900万円」と聞くと、かなり稼いでいるように聞こえますが、所得が多いほど税率が上がる「累進課税制度」のもとでは、収入が高くなればなるほど税負担は重くなります。手取り額に直すと、実際は650万円前後になります。この額のほうが大切です。

また、子どもを抱えるファミリー世帯の場合、年収が高いと児童手当などの各種手当も所得制限に引っかかり、減額されたりもらえなかったりするので、その点も考慮すると、手取り収入は世間のイメージほど多くないのが実情です。ちなみに、2018年度の税制改正で、年収850万円以上の人は増税になることが決まりました(子どもがいる家庭などは、この限りではありません)。これは2020年1月より実施されます。加えて、中学生までの子どもがいる世帯に支給されている児童手当にも、メスが入りそうです。

今回、E男さん一家も、キャッシュフロー表などをお見せすることによって、自分たちが思うほど高給取りでないということがわかり、その結果、マンションの購入物件や子どもの教育プランなどについてもすべて大幅に見直すことになりました。また、奥さんのC子さんは近い将来、働くことも視野に入れ、情報収集を始めることになりました。今後、コスト構造を見直し、かつ年収が増えるなら、選択肢は広がります。

比較的高収入の人ほど、つい「あれもこれも」と望んでしまいがち。ですが今の時代は給与がさほど伸びない中でも、支出だけは多くなる傾向にあります。おカネの「使いどころ」と「貯めどころ」を考え、メリハリをつけたマネープランを考えることが大切です。

頼藤 太希 Money&You 代表取締役、マネーコンサルタント

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よりふじ たいき / Taiki Yorifuji

(株)Money&You代表取締役。中央大学客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生保にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に(株)Money&Youを創業し、現職へ。女性向けWebメディア『FP Cafe』や月400万PVの『Mocha(モカ)』を運営。主な著書に『1日1分読むだけで身につくお金大全100』(自由国民社)、『はじめてのFIRE』(宝島社)、『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)などがある。日本証券アナリスト協会検定会員。ファイナンシャルプランナー(AFP)。

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