イノベーションは、どうすれば生まれるか? バイオベンチャー社長、窪田良氏インタビュー(上)

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もうひとつ、戦略的なムダと同じく大事なのが、戦略的に失敗を許すことです。要するに“質のいい失敗”をどうやって許すかです。もちろん、いい加減にやって失敗するのはよくないですが、仮説を検証した結果としての失敗は“意味ある失敗”です。そうした失敗を積み重ねないと、成功例は出てきません。

アメリカ人であっても、失敗するのは不安ですし、失敗がキャリアにとってマイナスになるとおそれていて、無難なことをやろうとします。だから私は社員に対して、「失敗をしていない=十分にチャレンジしていない、と見なしますよ」と伝えて、イノベーションを引き起こそうとしています。

いいリーダーになるためには、「言い訳ができないかたちでポジションを取る」という訓練を積まないといけない。リーダーが率先してリスクを取り、失敗を許容する姿を見せていかないと、部下もついてきません。

いい失敗と悪い失敗の違い

時に失敗をしても、ある打席でドカーンと得点を入れて、チームの勝利に貢献できる人はずっと組織に残れます。一方、リスクを取って仮説を検証しても、すべての仮説が外れでは説得性がありません。そういう人は、選手交代になります。すごく厳しい世界です。

窪田良(くぼた・りょう)
1966年兵庫県出身。慶應義塾大学医学部で博士号取得。眼科の臨床医を経て、研究医に転身。1998年には緑内障原因遺伝子であるミオシリンを発見し、「須田賞」を受賞。2000年より米国に移住。米ワシントン大学医学部でフェローおよび助教授として勤務後、2002年にバイオベンチャー、Acucela社を創業。「飲み薬による失明の治療」を目指し、新薬開発に挑む。

だから、どこまで失敗を我慢できるか、連続10打席ノーヒットの人をどこまで待つか――その見極めこそが、リーダーの腕の見せ所であり、組織の能力を引き出すいちばん重要な点です。

―失敗の質の良しあしは、マネジャーがすべて判断するのでしょうか? もしくは複数の人数で?

それはケースバイケースです。小さなレベルの話であれば、マネジャーレベルで見極められます。失敗を通して、今までにない情報が得られたならば、「次はここに気をつけよう」という教訓が得られるので、“質のいい失敗”といえます。

一方、ある意思決定をしたタイミングで手に入る情報を見落としていたために失敗したとしたら、それは“質の悪い失敗”です。失敗の質の判断は、直属の上司が行うことが多いですが、インパクトの大きいものに関しては、専門性の高い人材を含むグループで判断することもあります。

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