「自動ブレーキ」の安全性能はまだ発展途上だ 「ぶつからない」車の実力が過信できない理由

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トヨタのルーミーの被害軽減ブレーキ(対車両)の評価試験の映像。初速30キロでスタートしたが、わずか10キロ減速しただけで停止車両に衝突してしまう。(映像:自動車事故対策機構)

その一方で、同じ被害軽減ブレーキでも、車両を対象とした実験結果では多くの車種が減点のない32点満点となった。対車両の試験は、前方の模擬車両が「停止している場合」と「時速20キロで徐行している場合」の2パターンで行われ、10〜60キロで接近した際の警報と被害軽減ブレーキの作動状況によって評価される。

この試験が開始された2014年度当時は時速30キロ以下でしか作動しない車種も多かったが、2017年度の評価では50~60キロでも効果を発揮する車も増えた。各メーカーともモデルチェンジのタイミングで機能を進化させている。

たとえば、32点満点のホンダのフィットは2015年度の試験では32点中9点で、当時は前方を認識するセンサーは、低速時に強いレーザーレーダーだった。これをミリ波レーダーと単眼カメラからの情報を融合させる技術革新などにより、60キロまでの認識精度を大きく向上させた。

また、2014年度に14.9点だった三菱のアウトランダーはセンサーをミリ波レーダーから、カメラとレーザーレーダーを併用する方式にしたことで、衝突回避性能が高まっている。

ただ、満点だからといって「ぶつからない車」とは言い切れない。今回総合得点で満点をとった日産のノートでも、試験結果を詳細に見ると、車速10キロで遮蔽物がない条件で、歩行者のダミーに3回のうち1回はぶつかってしまった(2回成功したので減点はなし)。

さらに、2016年11月には同社製セレナの試乗車の被害軽減ブレーキが作動せず、前方の停止車両に追突する事故が発生。警察庁と国土交通省は2017年4月14日付けのリリースで「現在実用化されている『自動運転』機能は、完全な自動運転ではありません!!」という強い警告を発している。

実際、豪雨や降雪、夜間、窓の汚れがある場合、ダッシュボード上の物が反射している場合、センサーなど検知装置の前に遮断物がある場合など、天候や周囲の状況で、被害軽減ブレーキが作動しないケースは少なくない。

「被害軽減ブレーキなど安全運転支援機能はまだ普及期にある」と自動車事故対策機構の自動車アセスメント部NCAP技術・渉外グループの大谷治雄マネージャーは強調する。

だが、自動車ユーザーには間違った認識が広がっている可能性がある。

消費者にはびこる「自動化」への過度の期待

車両に対する「被害軽減ブレーキ」評価試験の様子。レーダーとカメラの組み合わせで、前方車両の認識の精度は着実に上がっているが過信は禁物だ(写真:自動車事故対策機構)

JAF(日本自動車連盟)が2016年2月に実施した調査によると、「『自動ブレーキ』や『ぶつからない車』と聞いて、どのような装置を想像しますか?」という問いに対して、「前方の車や障害物などに対し、車が自動的にブレーキをかけて停止してくれる装置」と回答した人が約4割に及んだ。

正しくは、「衝突の危険がある場合に、音や警告灯で危険を促すとともに、車が自動的にブレーキをかけて衝突を回避または被害を軽減する装置」だ。この回答を選んだ人は全体の半数しかいなかった。

ドライバーがブレーキを踏むアクションを起こさなければ、自動的にブレーキをかけることには変わりはないが、まずは音や警告灯で車や歩行者の接近を知らせて運転者に行動を促すのが本来の機能だ。

「自動ブレーキ」や「自動化」という言葉の甘美な響きで、システムに頼り切ってしまうのは危険きわまりない。安全運転支援機能に制御を任せて、もし事故を起こした場合、現在の法制度のもとでは、運転者が責任を負うことになる。

被害軽減ブレーキの導入効果で不注意による事故などは今後減っていくだろうが、過度に依存すれば新たな形態の事故が生まれかねない。

高見 和也 東洋経済 記者

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たかみ かずや / Kazuya Takami

大阪府出身。週刊東洋経済編集部を経て現職。2019~20年「週刊東洋経済別冊 生保・損保特集号」編集長。

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