「消費増税で教育無償化」なのに法改正なし? 首相への「忖度」で決めず、国会論戦すべきだ

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このような霞が関の態度には、余計な法改正によって政策実現のハードルを上げたくないという安倍政権への配慮、今年の流行語でいえば「忖度」がありそうだ。ただ、そうした政府運営のやり方は、手続きの正統性が重要になる民主主義にふさわしくない。

また、その政策支出が税負担と見合うかといった国会議論を経ずに、部外者が、別のところで確保された財源を横から分捕るような政治的行為を許してしまうことになる。消費増税を含む一体改革の成立に当たっては、民主党の野田佳彦政権(2012年当時)が政権をなげうって選挙で民意を問うている。

政策に必要な金額、財源を国会で議論すべき

高等教育の無償化などに消費増税の税収を使うなら、一体改革のときと同じように、必要な税収はどれくらいか、その政策支出は国民の増税に見合うものなのか、といった議論をすべきだ。また幼児教育の無償化についても、実際は子ども・子育て支援法では想定されておらず、本来ならこちらでも同様の国会議論を戦わせるべきだろう。あるいは、当初なかった政策メニューが加わったのだから、消費税率は10%で足りるのかといった議論もありうる。

そのうえで、正々堂々と消費税法や社会保障改革プログラム法などの中身を改正し、教育の無償化を実行すればよい。厚生労働委員会で質問した桝屋敬悟議員も、公明党が公約する私立高等学校の授業料の実質無償化を実現するために、そうした用途をプログラム法などに入れることを想定しているようだ。

こうした議論もしないで、教育無償化を憲法改正案に入れるかどうかを与党が検討するのは本末転倒だろう。

一体改革に携わった、ある関係者はこう語る。「解釈次第でどうとでもなるなら、法律は不要だ。教育無償化に消費税を使いたいなら、堂々と議論を戦わせればいい。火事場泥棒みたいなことを許してはいけない」。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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