米国金融危機--金融システム不安と実体経済悪化の懸念高まる

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 つまり、金融システムを支えるモノラインと同様の危機が世界の金融機関に伝播する構造になっていたわけだ。これが、AIG救済の最大の理由とみられる。日本の危機では、デリバティブ取引を手広く行っていた旧日本長期信用銀行がやはり「国際的な決済」の保護を一つの理由にして国家管理下に入った。

AIGが破綻しても傘下の保険会社は、各国の当局が監督下に置き、倒産隔離される制度設計にはなっている。しかし、驚くべき話がある。危機回避直前の15日、AIGは監督者のニューヨーク州から保険契約を200億ドルまで担保にしてよいとの許可を得た。金融保証子会社が招いた親会社の危機に保険部門の資本を流用できる財務再保険である。

日本の保険子会社であるアリコジャパンは親会社の株を持ち込み資本にしている。このため親会社株の下落で第1四半期に1200億円余りの損失を計上。AIGが破綻すれば、世界中の保険子会社が信用不安に見舞われる可能性があったのも事実だ。邦銀の窓口はすでにAIGグループの商品販売を自粛し始めた。

今後の焦点は残された投資銀行、ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーの行方だ。第3四半期決算はそれぞれ前年同期比70%減益と8%減益。17日の米国株式市場では両社株が急落した。「ゴールドマンやモル・スタでも商業銀行の傘下に入るしかないだろう」ともささやかれ始めている。証券化のビジネスモデル自体が壊れ、修復不能というわけだ。

では、ストックビジネスで安定収益を見込める商業銀行は安泰なのか。現在、危機の根っこにあるのは、住宅価格の大幅な下落基調だ。「原資産である住宅の価格が下げ止まらなければ、金融危機は解決しない。住宅価格はピークの35~40%まで下がり、下げ止まるのは10年半ば」(武藤敏郎 大和総研理事長)との見方が現時点ではコンセンサスになりつつある。損失が世界で2兆ドルにも上るとの見通しが有力だ。

金融危機は資産の切り売りを促進する。AIGは優良な航空機リース子会社や日本など保険子会社を切り売りするだろう。すでに投げ売り状態の証券化商品の売却ではキャッシュができないからだ。こうした行動はさらなる資産価格の下落を招く。金融機関が自己防衛から融資を渋り、社債市場も凍りつく状況に陥りつつある。日本の経験では、ここからが危機の本番。金融システム不安と実体経済悪化のデススパイラルだ。住宅バブルとは無縁だった企業の資金繰りまで悪化する。

金融危機はFRBの財務不安にも及ぶ

となると、商業銀行のバランスシートも痛手を被らざるをえない。証券化モデルの流行に乗って、商銀でも問題資産を大量に抱える。特にこの分野で収益を稼いできたシティグループはきつい。同様に銀行発祥でスイス本拠のUBSも苦境にある。預金者保護のため大銀行は破綻だけは免れるだろうが、再編の波にのみ込まれることは必至だ。

実のところ、危機の深刻度はFRBのバランスシート不安にまで波及している。今後、AIGが850億ドルの枠をどれだけ使うかは格付け動向次第。住宅公社は住宅価格下落に応じ、五月雨式に2000億ドルの枠を使い切るかもしれない。FRBを守るため、米財務省は政府短期証券の発行による資金供給を決めた。財政赤字は拡大を免れない。

米欧の金融危機は総力戦の様相を呈し始めた。世界中にバラまかれたリスクとドル危機の恐怖が終息する日はいまだ見えない。


(週刊東洋経済編集部)
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