SLやまぐち号、「D51」投入で人気最沸騰 C57との重連走行が実現、客車も一新

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一方、今回、D51の本線復帰を決め、「やまぐち」号継続への決意を織り込んで新造されたのが、35系4000代の客車であった。すなわち、車両のライフサイクルとして今後40年程度は運転すると決めて、経年の高い12系を置き換えるべく、新造車投入に踏み切ったのである。

「最新技術で快適な旧形客車を再現」がコンセプトで、SL全盛時代の35系客車(当時、正式には“系”としての区分はなかったが)の内外装を復刻しつつ、現代のバリアフリーや安全対策、快適性を織り込んだ。外観はシル・ヘッダー付きの重々しい姿に茶色をまとい、内装には往時と同じ木材を使用している。

スハテ35の客車。板張りの背もたれが三等の雰囲気を醸す(撮影:杉山慧)

座席は2~4号車が普通車標準の青、津和野方5号車は明治・大正期から3等車に使われ続けた緑、新山口方1号車は「やまぐち」号に新たに設けられたグリーン車として、往時の優等車両の臙脂のモケットが張られている。むろんすべて単色である。さらに時代がかった5号車は背もたれも木製で、屋根(天井)は二段構成でモニタルーフの雰囲気を再現する。

とは言え、木はすべて難燃加工により樹脂のように光りシートピッチを拡大して、テーブルを備える。レトロ調のグローブ灯もLEDだ。デッキにステップはなく、ドアは引戸式で自動。全車空調を装備し、洗面所は往年のシンクを再現しつつも自動給水栓、トイレは温水洗浄便座の洋式で、車いす対応も備わる。往時の「便所」ではない。その中で各種プレートの楷書体の文字が泣かせる。

客車独特の衝撃は消える

車両性能的にも効き目が均一な電気指令式ブレーキが装備されており、発車時も停車時も静か。機関車の自動空気ブレーキからは、読替装置を介して作動させる。ただ、良くも悪くも客車独特の衝撃はなくなり、まるでインバータ制御の電車に乗っているかのようだった。

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旧型客車に執拗にこだわれば、この客車は旧型でも何でもなく、SLと違い文化財の価値を持つわけでもない。しかし、難燃加工のない木材や手動ドアの新車は、現行の法規では認められないのだから、今後も「やまぐち」号を走らせるための必然である。でなければ運転自体が消える。

12系に引き続き、展望デッキも設けられた。1号車のグリーン車はかつての展望車マイテ49がモデルなので当然ながら、3等車を模した5号車にもある。進行側はSLの直後でシンダ(燃えた石炭の細粒)が降り注ぐため閉鎖され、上下とも最後尾のみが開放される。今回、1号車はグリーン車となったため、普通車の乗客は立ち入れない。そのぶん下りのグリーン客はごった返すことなく満喫できる。快速列車であり、グリーン料金は普通列車の料金が適用されるため、新山口~津和野間でわずか980円だ。一方、上り列車で最後部となる5号車の展望デッキは、12系客車にはなかったもので、新たな楽しみとなった。

鉄道ジャーナル編集部

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車両を中心とする伝統的な鉄道趣味の分野を基本にしながら、鉄道のシステム、輸送の実態、その将来像まで、幅広く目を向ける総合的な鉄道情報誌。創刊は1967年。

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