大谷翔平のメジャー挑戦が突きつける光と影 MLBは「ええとこ取り」をしているだけなのか

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NPBはセ・リーグとパ・リーグで合わせて、2017年の公式戦入場者数が史上最高の2513万人の観客動員に沸いている。足元では少子化のペースを超えて野球人口が減っており、「野球離れ」が着実に進行しているが、野球を進化させるべきだという問題意識は薄い。

それでもパ・リーグはPLM(パ・リーグ・マーケティング)という会社を興し、パ・リーグの試合の中継、配信や6球団でのマーケティングを行っているが、セ・リーグは昭和の時代のままである。日本人選手の海外流出が続き、日本とMLBの距離がぐっと近づいた十数年前には、MLBは、国際戦略を推進するためNPBを傘下に収め、そのビジネスを取り込むのではないか、と言われ、脅威論が盛んに言われたが、結局、何も起こらなかった。
MLBは、選手だけでなく、ビジネスパートナーとしてのNPBにも見切りをつけたように見える。

清宮幸太郎は、たった1人でメジャーに挑戦する?

1995年の野茂英雄のMLB挑戦、2001年のイチローの移籍をエポックとして、日本の野球少年やファンの意識ははっきり変わっている。野茂英雄、イチローらの活躍で、野球少年たちの目指す高みは、甲子園や東京ドームではなく、MLBのスタジアムになったのだ。

前出の根鈴雄次は、横浜市で「アラボーイベースボール 根鈴道場」という野球塾を主宰している。中学や高校の有望な選手もここで学んでいるが、彼らの多くが、MLBを目指しているという。

「うちに通っている甲子園出場が有望視される私立高校の有望選手は、高校を卒業すればアメリカの大学に進み、MLBのドラフトにかかりたいとはっきり言います。もうNPBは目標ではなくなってきたんですね」と根鈴は言う。

パンドラの箱は開いてしまったのだ。日本の野球少年、ファンは、プロ野球のその先に、さらにレベルが高くて、比較にならないほどのビッグマネーが動く夢のステージがあることを知ってしまったのだ。このために、「NPB経由ではMLBに行くことはできない」と思う野球少年が、少しずつではあるが増えているのだ。近い将来、そうした少年がマイナーリーグに挑戦する姿が見られることだろう。

大谷翔平と入れ替わりに日本ハムに入団する清宮幸太郎は、MLBへの挑戦も視野に入れていると言われる。しかし、純然たる野手である清宮が順調に成長し、MLBに挑戦するときには、彼の地で清宮を待ち受ける先輩日本人野手はいないかもしれない。イチローや松井が開拓し、一時は7人もの野手が活躍した「日本人野手」という開拓地は再び荒廃していることも考えられるだろう。

(文中敬称略)

広尾 晃 ライター

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ひろお こう / Kou Hiroo

1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイースト・プレス)、『もし、あの野球選手がこうなっていたら~データで読み解くプロ野球「たられば」ワールド~』(オークラ出版)など。

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