電通子会社があのウーバーに訴えられたワケ 世界に蔓延する「広告詐欺」を知っていますか

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ところが、アドフラウドの出現により、ネット広告の信頼性は大きく揺らいでいる。「アドフラウドは、見つかりさえしなければサイトや広告会社の儲けになる。アドフラウドに手を染めるサイトが支払うキックバック報酬は、この『悪のマネタイズ』を一層助長するもの。この循環の中で、広告主企業だけが裸の王様になるおそれがある」。広告産業に長い長澤秀行・デジタルガレージ特任顧問はそう指摘する。

企業が懐疑的になる理由は、アドフラウドだけではない。企業にとっては広告を表示されたくない、アダルトコンテンツや政治的・思想的に偏りがあるニュースサイトなどに、想定外に広告が配信されてしまう事態が世界で多数起こっているのだ。

ネット広告は、中間業者を介して無数のメディアに配信される。テレビや新聞が広告媒体の中心だった時代に比べて、どこに広告が出稿されたかは把握が難しい。特に広告主がより大きな広告効果を求めると配信先の数が増え、いっそう把握が難しくなる。

「大手企業が近年ネット広告に対し、販売促進だけでなく、ブランディングの効果も求めるようになっている。その中で、ブランド価値を毀損するような広告は深刻な問題だ」(長澤氏)。広告がむしろブランド価値を毀損するリスクを生むという、ブランドセーフティと呼ばれる問題が起こっている。

掲載メディアによってはブランド価値の毀損に

実際、ウーバーがフェッチの業務に懐疑的になり始めたのも、自社の広告が極右系と呼ばれるメディアに掲載されていたことがきっかけだ。この広告配信で、一部の消費者から「ほかの大手企業は広告出稿を取りやめている問題メディアに、ウーバーはいつまでも出稿している」と指摘される事態があった。これによる経済的な損失額を弾き出すのは難しいが、ブランド価値の毀損につながったのは間違いない。

こうした問題への対策は、完璧ではないながらもある。アドベリフィケーションと呼ばれるITツール・サービスを導入し、クリックや広告配信先の状況を機械的に把握する手法だ。米国では大手広告主の8割がこういったツールの導入で、何らかの自衛策を講じているという。

一方、「対策にはおカネがかかるため、『なぜ広告業界側ではなく、カネを払っている企業が対策を講じなくてはならないのか』と不満が爆発している」。ヤフージャパンやグーグル日本法人などで長年にわたりネット広告を手がけてきた有馬誠・楽天データマーケティングの社長は指摘する。成長を続けてきたネット広告市場は、今大きな踊り場を迎えている。

週刊東洋経済12月23日号(12月18日発売)の特集は「ネット広告の闇」です。
杉本 りうこ フリージャーナリスト

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すぎもと りうこ / Ryuko Sugimoto

兵庫県神戸市出身。北海道新聞社記者を経て中国に留学。その後、東洋経済新報社、ダイヤモンド社、NewsPicksを経て2023年12月に独立。

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