老後の貯蓄が消えた!--金融危機におののく米国市民


 リーマン・ブラザーズやメリルリンチ、52階建てのバンク・オブ・アメリカなど大手金融機関のビルが軒を並べるサンフランシスコ市のカリフォルニア・ストリート。そこから歩いて5分弱のスピア・ストリートには米当局が救済を決めた保険最大手・AIGのオフィスがある。すでにリーマン・ブラザーズは連邦破産法11条を申請して破産。1914年に設立されたメリルリンチも、バンク・オブ・アメリカに株式交換で503億ドルで身売りした。貯蓄貸付組合大手のワシントン・ミューチュアルも見売り先を探している最中だ。投資銀行モルガン・スタンレーやゴールドマン・サックスの株価は下落している。
 
 カリフォルニア・ストリートからスピア・ストリート一帯の金融街のカフェテリアで、「これから、さらに経営危機の金融関連企業が出てくるだろう。同じ業種への転職は無理。これから、何をしよう」と、某証券関連で働く男性が同僚に話していた。カリフォルニア州で金融保険、不動産関係の就業者の割合は約6%。金融危機は、金融関連の仕事が無くなるだけでなく、金融関連企業を重要な店子とする不動産会社への影響も大きい。不動産関連株も軒並み下がり続けている。

「株だけだったら良かったのに! 定年退職後のために貯めた金をリーマン(の銀行部門)に預けた。家の評価額も下がっいるし、これからどうしたもんだか」と、金融街にあるリーマンの銀行部門を訪れたというジャック(67)は嘆く。今回の金融危機は、ジャックのようにリタイアした人々の間にとりわけ大きなショックを与えている。
 
 ここベイエリアのアメリカ人たちの中には疑心暗鬼に陥る者もいる。教職を40年間勤め上げ、リタイアしたキャロリンは「投資銀行はフィデリティを使っているけど、大丈夫かしら。まだ報道されていないけれど、財務内容が悪い金融機関は相当あるはずだわ」と、心配する。
 
 将来を案じ、精神的ショックから心情相談でカウンセラーを訪れるケースもあるようだ。「クリントン政権時代は401Kでも何でも資産が増えていた。ブッシュ政権以降は株、401Kでも何でも、資産が減るばかり。経済に疎い新しい大統領で、外国と戦争を始めでもしたら、いったいどうなるのか」と、財務で15年、市場開発部門で25年働いてきたリチャードは憤る。
 
 ここにきてポールソン財務長官と連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長が、ナンシー・ペローシ下院議長らと金融機関の不良資産問題を解決する緊急会談を行った。米政府は公的資金を投じ、不動産抵当と連結する不良債権を買い取る整理信託公社のような専門会社を設立して、救済に乗り出す。投資銀行等の債権を米政府が肩代わりする形で、世界で株価下落を引き起こした金融危機を沈静化するのが目的だ。世界経済にとっては喜ぶべき政策だが、これには結局、アメリカ国民の税金が使われて、国民の負担増になる。
 
 「世界一豊かな国で生活しているはずなのに、まったくそんな感じがしない。働いても、働いてもどこかにお金が消えていくのよ」と、ブティックのマネージャー、ドナはいう。
 
 ベイエリアでは相変わらず不動産の抵当流れ物件の処理が進まず、サンノゼ市のある中級住宅地区では、全住宅のうち、抵当流れ物件が2%台に達するという。また、失業も増加中で、カリフォルニア州の失業率は6月の7%から8月には7.7%の上昇した。
 
 その一方で、物価は下がらない。世界から投資を受け入れ、米国は借金だらけ。国を支えるアメリカ庶民の暮らしは安穏とは程遠く、彼らの苦闘はこれからも続きそうだ。
(Ayako Jacobsson =東洋経済オンライン)

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