不適切勧誘を悪びれない証券会社のお粗末さ 監視委が岩井コスモ証券に対する処分を勧告

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岩井コスモは2006年10月から、「A銘柄」をレポート公表前に一部顧客にのみ推奨する不適切な株式営業を続けていた。しかし同社は「不適切な営業をしている」という認識はこれまでなく、「今回指摘されて初めて不適切だと認識したというお粗末さ」(監視委)なのだという。

加えて監視委は「不適切な勧誘が容易に行われる状態だったのに、そのことに問題意識を有することなく長期間にわたって容認しており、内部管理態勢は著しくずさん。経営者は営業態勢を積極的に整備する一方、実効性のある法令遵守や内部管理の態勢は整備してこなかった」と岩井コスモを断罪した。

監視委が野放しにした責任はないのか

一方で、今回の通常検査まで11年強にわたって不適切営業を野放しにしてきたことについて、監視委側は「これまで重点的にチェックしていなかったから」と述べるにとどまっている。

旧コスモ証券を旧岩井証券が吸収合併したのは2012年。今回のような不適切な営業は、合併の6年前にコスモ証券が始めたものだった。合併後に旧岩井証券の出身者が違和感を覚えなかったのだろうか。監視委は「岩井はアナリストを抱えておらず、そういうものなのかと錯覚していたようだ」と説明する。

規模は比べるべくもないが、今回の処分勧告は、資産バブル時代の「シナリオ営業」や「VIP口座」を彷彿とさせる。シナリオ営業は、たとえば大手証券の株式部長が「鉄鋼相場が始まる」というシナリオを作り、数十の系列証券に伝達する。すると、多くの顧客が鉄鋼株を買い、結果的に鉄鋼相場になるという予定調和的な営業スタイルだ。相場が終わる間際に買った者が大きく損をすることが多く、現在は行われていない。

VIP口座は、富裕層の個人顧客を必ず儲けさせる仕組み。事実上証券会社が運用し、損が出ると損失補てんまで行い、社会問題になった。今回の監視委の勧告により、そのような一部の顧客を優遇する発想が岩井コスモには今もなお息づいていることを露呈した。

他の証券会社でも同様のことが行われていないか。監視委や金融庁の証券会社検査が、よりシビアになる可能性も考えられる。

山田 雄一郎 東洋経済 記者

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やまだ ゆういちろう / Yuichiro Yamada

1994年慶応大学大学院商学研究科(計量経済学分野)修了、同年入社。1996年から記者。自動車部品・トラック、証券、消費者金融・リース、オフィス家具・建材、地銀、電子制御・電線、パチンコ・パチスロ、重電・総合電機、陸運・海運、石油元売り、化学繊維、通信、SI、造船・重工を担当。『月刊金融ビジネス』『会社四季報』『週刊東洋経済』の各編集部を経験。業界担当とは別にインサイダー事件、日本将棋連盟の不祥事、引越社の不当労働行為、医学部受験不正、検察庁、ゴーンショックを取材・執筆。『週刊東洋経済』編集部では「郵政民営化」「徹底解明ライブドア」「徹底解剖村上ファンド」「シェールガス革命」「サプリメント」「鬱」「認知症」「MBO」「ローランド」「減損の謎、IFRSの不可思議」「日本郵政株上場」「東芝危機」「村上、再び。」「村上強制調査」「ニケシュ電撃辞任」「保険に騙されるな」「保険の罠」の特集を企画・執筆。『トリックスター 村上ファンド4444億円の闇』は同期である山田雄大記者との共著。

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