「深海」を舞台に世界と戦う、日本の勝算は? 水深4000m海底探査レースに挑む挑戦者たち

拡大
縮小
チーム全体のマネジメントを担当する進藤氏(左)はメンバーの能力を最大限引き出せるようつねに気を配る(提供:Team KUROSHIO)

しかし、深海ならではの厳しさに頭を悩ませることも多いという。「まず、海での活動は天候が大きく影響します。そのせいで予定どおりに事が進まないのは日常茶飯事ですし、船酔いに苦しむメンバーも少なくありません。陸との違いで言えば、通信もしかりです。海中では音波を使って通信や測位を行いますが、音波は陸上の無線通信で使われる一般的な電波と比べると速度が遅く、通信できる情報量も少ない。そればかりか、雑音が多く、通信がうまくいかないこともザラにあります。さらに、海ではモノが簡単になくなってしまう。それはAUVなど高価な機材を扱うチームにとって、大きな懸念事項です。陸上ではモノは故障してもその場に留まりますが、海でモノが故障したりすれば、海底まで沈んだり潮流に流されてしまって、数千万、数億円もするモノがいとも簡単になくなってしまうのです。そういった海ならではの緊張感に鍛えられながら一つひとつ課題をクリアしてきました」。

コンペには、世界中の優秀な研究者や技術者が集まる。手強い相手も多い。進藤氏は「『Team KUROSHIO』はラウンド1を突破できるだけの実力があると自信を持っています。でも、油断せず、しっかり準備して確実に勝ち残りたいと考えています」と慎重な姿勢を見せる。さらに、その先に控える決勝に相当するラウンド2に向けた準備も同時に進めていかなければならないのも難しいところである。

「参加している他のチームは倒すべき『敵』ではなく、困難な課題に共に挑む同志だと思っています。とはいえ、私は子どものころからレースが好きで、レースが好きだからこそヤマハ発動機に入社しました。私にとっては、このコンペはある意味『レース』です。相手が手強くても、レースに出るからには勝利をつかみたい。あとは当日を迎えるだけ、『Team KUROSHIO』の姿を多くの方に見ていただきたいですね」

AUV開発のエキスパートが参加

もう一人、注目しておきたいメンバーがいる。海上技術安全研究所からチームに参加する横田早織氏だ。大学院では流体力学を研究。その知見をAUVに活かすことができないかと考え、2014年に入所した。同研究所では、自律型海中ロボット(AUV)開発研究グループに所属。AUVの開発・設計から製作に至るまでのマネジメントを担当しているエキスパートだ。このAUVこそが、今回のコンペで勝利をつかむカギを握っていると言っても過言ではない。

海上技術安全研究所
横田早織

「日本でAUVを所有するところは少なく、『研究所のAUVを使わせてほしい』と連絡があったときは面白いチャレンジ、私も挑戦してみたい!と真っ先に思いました。私がAUVを研究している理由は、世界最先端の研究に触れたいからです。いつか、その最先端を自ら提案できる研究者となるために、今回の挑戦は貴重な経験になると考えました。研究所も若手にさまざまな経験をさせることに積極的だったため、2017年1月からチームに参加させていただくことになりました。チームのメンバーも別のプロジェクトで、ご一緒した研究者が多く、心強いです」

次ページ日本の優位性は複数のAUVを一度に運用できること
お問い合わせ
関連ページ
第1回
いまだ私たちは「地球の3分の2」を知らない
深海、苛酷な「レース」に挑む挑戦者たち