韓国エリート層が「北朝鮮問題」に怯える事情 中韓首脳会談に臨む文大統領の思惑

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文大統領は、韓国の同意なしに軍事力が行使されることはない保証があると繰り返し主張したが、トランプ大統領がこれを明言する場面はなかった。加えて、文大統領は、最近のミサイル実験によって後退しているものの、北朝鮮と交流を回復したいという考えを堅持している。

今回、文大統領が訪中する最大の目的は、北朝鮮への強力な制裁を維持するよう中国を説得することだ。北朝鮮による核開発を完全にやめさせるという観点から言えば、韓国政府は制裁が即座に、あるいは、将来的に何らかの成果をもたらすとは必ずしも考えていない。むしろ韓国政府は、「中国が制裁に関して本気になれば (あるいは少なくとも本気であるように見えれば)、米国が軍事力の行使に訴える可能性が低下すると信じている」(ランコフ氏)。

THAADをどうするか

ストラウブ氏もまた、訪中の目的の1つは、中国との連携を強化することで、米国を軍事的選択肢からある種の交渉へと方向転換させることにあると見ている。加えて、文大統領は在韓米軍が配備する高高度ミサイル防衛システム「THAAD(サード)」の展開に対して中国が科した韓国企業への経済制裁のさらなる緩和と、理想的には習主席の平昌冬季オリンピック参加を含めた中国の支援を求めている。

こうした短期的目標に加えて、韓国政府は米韓同盟への戦略的な依存から脱却し、米国と中国との間の「均衡点」へと移行しようとしているのではないか、と一部の専門家は見ている。この目標は、文大統領が側近を務めていた盧武鉉政権がジョージ・W・ブッシュ政権時に表明したものである。その時も、米国が朝鮮半島で軍事力に訴えて戦争を始めるのではないかとの危惧に直面していた。

今回の文大統領による中国訪問は、10月末、中韓の外交部長官間でTHAAD配備をめぐる関係悪化を改善させるために合意された。中国による韓国企業に対する事実上の制裁は、韓国に約180億ドルもの損失をもたらしたとの推測もある。

中国政府は、韓国がTHAADを追加配備しないこと、米国とミサイル防衛システム(MD)を構築しないこと、そして日米韓の3国軍事同盟に加わらないことを韓国政府に要求。韓国政府も、中国の「憂慮」を認識していると表明した。もっとも、THAADをめぐる双方の溝は埋まりきっておらず、今回は首脳会談後の共同声明が見送られる可能性が取りざたされている。

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