「死にたい」とつぶやく18歳少女を救った言葉 危険なネット上の誘惑からこう抜け出した

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「時として、生徒が何か発言したそうな目をすることがあるんです。そういう空気を感じることがある」

そんなとき、口山さんは生徒が口を開くのを待つ。「待たれるのが嫌な子もいるので全員同じやり方ではありません。それに、答えたくなさそうなら引くけれど、顔を見て、あ、言いたそうだなと思ったら10分でも待つ」という。

みんな、ちょっと待っててね――。そう断って、発言しそうな子ども以外の生徒たちには、その子を待っている時間でプリントの裏に絵を描こうが、漫画を読もうがOKにしてしまう。

そのような時間の中で、マスクの男子生徒は驚きの変貌を遂げた。数カ月の間に、マスクを外して授業を受けるようになったのだ。その次は、促せば意見を言うようになった。

そして、ついに。指名しないのに、「はい、先生!」と挙手して自分の意見を述べるようになった。学校中の教職員から「あの子がマスクを外すなんて!」「挙手するなんて」と驚かれたという。

「私は、あの子のマスクを外してやろうなんて目論んでやったわけではありません。もともと持っている力を発揮するまで待っただけです」

それなのに、結果を急ぐあまり待てない大人が「厳しさがなければ」と子どもを抑圧した結果、ネットの世界に追いやっていないだろうか。

「待つことは、信じること」

「死に方教えます」のDMを受け取った女性の母親も、サイバー補導されたわが子を迎えに行ったとき「帰るよ」と言っただけだった。

親に恥をかかせて平気なの?

何考えているの?

どうしてこんなことしたの?

そんなふうに、思わず問い詰めたくなるはずだ。

そうしなかったことで、わが子を待つ時間をつくれたのだろう。とはいえ、「待つことは、信じること」などと言われると少しハードルが高い。待ってもらえないため懸命に突っ走ってきた大人は、「それでいいの? 厳しくしなくていいの?」とかえって疑心暗鬼になるかもしれない。

であれば、子ども目線でとらえてみるといいかもしれない。前回記事と今回で取り上げた19歳と18歳は、奇しくも同じことを言った。

「待ってもらえると、自分は親に信じてもらったんだと自信になった」

子どもたちが「待ってもらえれば自信になる」と言うのだから、そこを肯定してはどうだろう。デジタル化にAIにグローバル。一変したこの激動の時代を、私たち大人は「子どもとして」生きた経験はないのだから。

島沢 優子 フリーライター

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しまざわ ゆうこ / Yuko Simazawa

日本文藝家協会会員。筑波大学卒業後、広告代理店勤務、英国留学を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。主に週刊誌『AERA』やネットニュースで、スポーツや教育関係等をフィールドに執筆。

著書に『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)、『部活があぶない』(講談社現代新書)、『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)など多数。

 

 

 

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