「情熱大陸」に夢中な人も知らない泥臭い裏側 放送20年の長寿番組が支持され続けるワケ

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時に「質より時事性」「質よりスピード」「質よりニーズ」を優先させる方針はテレビ業界だけの話ではなく、多くの商品やサービスにも当てはまるものです。ちなみに、「100点の回は?」「最も印象的な回は?」と尋ねたところ、「人物を扱っているだけに、『どの回が突出している』というのは答えづらいですね(笑)」(福岡さん)。

福岡さんは36歳の若さで看板番組のプロデューサーに起用された

「不安」と「不満足」こそ一流の証し

ならば、次に聞きたいのは、成功者やプロフェッショナルの共通点。各界のトップランナーたちに触れ続けてきた福岡さんは、迷いなく語りはじめました。

「共通点は『つねに自信がなく、悩んでいる』こと。自信満々な人は、ほとんどいませんし、神経質になって研ぎ澄まされていかないと成功するのは難しいのではないでしょうか。自分を追い込んで追い込んで、たたいてたたいてようやくスポットが当たったとき、自信満々に見えるけど、スポットが消えた場所ではまた同じ姿に戻っています。ピアニストは『1日ピアノに触らなかったら終わり』と言われる世界ですし、元プロ野球選手の黒田博樹さんも毎年『辞めたい、辞めたい』『また1年投げなきゃいけないんだ』という葛藤を繰り返していて、そこにうそはないんですよ」(福岡さん)

「情熱大陸」の出演者によく見られる特徴は、不安と不満足。自分の現状に満足できず、大きな挑戦をするが、やはりそこには不安がつきまとい、いったん成功を収めてもそれが消えることはない……。これらの知られざる顔と、ヒリヒリした展開が、視聴者の支持につながっているのでしょう。

福岡さんいわく、「挑戦を続けるトップランナーたちは、いい意味での変わり者が多く、だからこそ面白い」。しかし、変わり者の分だけ距離感の取り方は難しいはずであり、そこに同番組の真骨頂が見られます。

「信頼してもらうためには、いつもカメラを持って撮影しに行くのではなく、何もしないでそこにいる日とか、10秒だけ顔を見て帰る日なども大切にしています。寝食を共にしていくうちに『この人は大丈夫そうかな』とわかってもらう形ですね。“組織人の仕事”として接しられると自分を見せにくいですし、つらいので、仲間になるというか」(福岡さん)

事実、ディレクターの中には、「『情熱大陸』を仕事としてやっていない」という人も少なくないそうです。「仕事だから」ではなく、「制作者のやりがいや楽しさが相手にも伝わるから」心を開いてもらえるということ。たとえば、菜々緒さんはマネジャーなしでパラオでの密着撮影に臨んだようですから、信頼関係のほどがうかがえます。

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