深海、過酷な「レース」に挑む挑戦者たち いまだ私たちは「地球の3分の2」を知らない

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現在、海底調査を行う際には、海上の支援母船に人が乗船して海中ロボットのオペレーションを行う。だが、今回のコンペでは母船に人が乗ることは禁止。そのため人は陸に残り、海底調査は無人の母船と海中ロボットのみで行う。しかも、コンペに持ち込める機材は、40フィートのコンテナ1個に納まることが条件だ。海底の調査を行うことができるのは24時間以内、その後48時間以内で海底マップを作成することが求められる。

「海中の海水密度は空気の約1000倍であり、非常に抵抗が大きく、ロボットですら時速3〜5kmと人が歩くスピードでしか進めません。そんな環境下でありながら最低でも250km2を制限時間内に調査しなければならないのです。これまで誰もやったことがないことが求められていますが、それだけ挑戦する価値がある、深海に興味がある人もない人も、すべての人の胸を高鳴らせるものだと思っています」(中谷氏)。

欧米の強豪たちに、どう立ち向かうのか

これに対する「Team KUROSHIO」の戦略は明確だ。これまでの海底探査では、母船・自律型海中ロボット(AUV)の管理、運用に多数の人員を要し、取得したデータは後日、陸上に持ち帰って数週間かけて処理するため時間も労力もコストもかかるものだった。しかし、今回のコンペでは、岸壁から衛星通信を介して洋上中継器(ASV)を目的の海域へ移動させ、ASVから音響を使って海中のAUVと通信する。人間が陸上からシステムを一括管理し、ロボットだけで調査海域に出かけて海底調査を行うという世界初の試みである。「海中では電波が使えないので、音響(超音波)を使って通信します。AUVには、自律航行プログラムが実装されたコンピュータのほか、方位センサ、ソナーなどが搭載されています。AUVは海底の起伏に沿って航行し、超音波を使って海底地形を明らかにしていくのです」。

「Team KUROSHIO」の戦略とは

画像を拡大 これまでの海底探査
画像を拡大 「Team KUROSHIO」の戦略

はたして勝算はあるのか。現状、AUVは石油・軍事関連で使われることが多いため、欧米が強い状況だ。

「ドイツのチームをはじめ確かにライバルは多い」と中谷氏は本音を漏らす。「ただ、日本でもJAMSTECや東大を中心として30年近い研究実績があり、AUVの最新トレンドをとらえ技術のキャッチアップに成功しています。われわれが勝っている技術も多く、勝ち残る自信があります。しかも『Team KUROSHIO』 のようにさまざまな分野からメンバーが集まったバランスの良いチームは他にはありません。今回のコンペでしっかり結果を残すことによって、日本の技術力を世界に発信したいと考えています。また、このコンペを通じて、国内のさまざまな民間企業や研究機関と連携して、若手を中心とした新しい研究コミュニティを構築したいと考えています。そして、将来的に世界でビジネス展開をしていきたいと考えています」と自信を見せる。

いよいよ2018年1月からラウンド1、「Team KUROSHIO」にとっての初戦が始まる。深海を舞台にした世界との戦いは、深海ビジネスの主導権を握るカギとも言える。「Team KUROSHIO」の勝利の行方はいかに。大会やチームの最新情報は、Twitterなどで発信されている。ぜひ皆さんも「Team KUROSHIO」をフォローし、応援してみよう。

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