3Dプリンターへの大きすぎる期待と現実 製造業以外に大きな潜在市場

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動き始める官民連携での開発

3Dプリンターは、一般的に3次元のデータをもとに樹脂や金属、石膏、砂などを一層づつ固めながら積み上げることによって立体物を製作する装置だ。切削や射出成型、プレス加工など従来の製造技術では難しい複雑な形状の立体物を継ぎ目なく成形できることができる。

オバマ米大統領が2013年2月に3Dプリンターを製造業復活の切り札として掲げ、世界的なブームが沸き起こっている。日本でも官民連携での新型3Dプリンター開発が動き始めた。

経済産業省は8月30日、来年度予算案の概算要求に次世代3Dプリンターの開発プロジェクトにかかる経費として45億円を盛り込んだ。今年5月には経済産業省が産業技術総合研究所やシーメット、群栄化学工業など12社に対し、複雑形状の鋳造用砂型を作成できる3Dプリンターの開発を委託している。

経産省・素形材産業室室長補佐の大胡田稔氏によれば、次世代3Dプリンターは速さで従来の10倍、精度で同5倍を実現するとともに、加工しやすい金属素材や高精度な3次元スキャナーの開発を目指すという。「海外製に比べ、価格を10分の1に抑えることで幅広い鋳造業者への導入を促し、約1300億円と見込まれる複雑形状の鋳造市場に3Dプリンターを浸透させたい」と大胡田氏は意気込む。

大量生産には課題多く

だが、当の業界からは冷静な声が多い。最新の製品でも5センチ四方の部品を作り上げるのに約1時間かかるなど、大量生産にはまだブレークスルーが必要なためだ。また、複雑な形状を持たないものであれば、3Dプリンターを用いる必要はない。鋳造業界の生産高は2兆円だが、経済産業省が見込む3Dプリンターの参入規模は1割に満たない。

「3Dプリンターで機械的強度を保った最終製品を製作できるまでには、まだまだ時間がかかる。複雑形状の鋳型の作成がメインである限り、鋳造業への影響は軽微」と日本鋳造協会・専務理事の角田悦啓氏は話す。

鋳造業の根幹を担う技術の伝達が困難なことも鋳造革命に至らない一因だ。アルミ鋳造と3Dプリンターを展開するジェイ・エム・シー(横浜市)の代表取締役、渡邊大知氏は「長年にわたって培った価値あるアナログな技術をデジタル化しない限り、3Dプリンターという装置を開発しても使いようがない」と指摘する。

3Dプリンターの技術は古く、その始まりは1980年4月に名古屋市工業研究所の小玉秀男氏が発明した光硬化性樹脂に紫外線をあてて造形する技術といわれる。87年には3Dシステムズが初めて商用化し、製造業のプロセスにはすでに20年以上組み込まれてきたが、「産業革命」には至っていない。

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