「格差社会」は、いかにして助長されてきたか アメリカンドリームは、こうして終わった

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それが1970年代以降、金融資本主義が席巻する中で、エリート層の支配欲はより露骨になり、政治を私物化し、民衆を無力化するようになった。今日のアメリカにおいて、アダム・スミスが『国富論』の中で言う「社会を所有している人たち」とは、金融界や多国籍企業のことであり、これらは「すべては自分のためであり、他の人を考慮する必要は一切なし」という「下劣で恥ずべき行動原理」に従って動いているのである。

アメリカの建国の歴史にまでさかのぼって検証

チョムスキーは、この「下劣で恥ずべき行動原理」を10項目に分類し、アメリカの建国の歴史にまで遡って検証している。

まず、「原理1 民主主義を減らす」では、市民運動が最も活発だった1960年代以降、政府や企業は市民が権力を求める民主主義に対して恐怖を抱くようになり、過剰な民主主義は抑圧されるべきであるとの認識が強くなっていったことが示されている。

そのために必要だったのが、「原理2 若者を教化・洗脳する」ことであり、続く「原理3 経済の仕組みを再設計する」では、グローバル化が進むにつれ、労働者が世界レベルで厳しい競争を強いられるようになり、経済全体が製造業から金融業にシフトするにつれ、1980年代までに、労働者はますます不安定な雇用状況と向き合わなければならないという流れが確立し、階級に関係なくチャンスがあるというアメリカンドリームは非現実的なものになっていった。

次に、「原理4 負担は民衆に負わせる」では、1960年代まではアメリカの法人税が現在より遥かに高かったのが、大企業と政府の関係が密になるにつれ、企業は法人税の低減を訴え、政府が市民に対する税金を引き上げていった様が示されている。

更に、「原理5 連帯と団結への攻撃」では民衆がいかに分断されてきたか、「原理6 企業取締官を操る」では新自由主義がどのように経済を席巻してきたか、「原理7 大統領選挙を操作する」では選挙がいかに金で買われてきたか、「原理8 民衆を家畜化して整列させる」では労働組合がいかに弱体化させられてきたかが指摘されている。

そして、「原理9 合意を捏造する」では、メディアによる市民の洗脳と消費社会が同時に進んだことにより、市民の政治意識が希薄になり、アメリカ社会が本来の民主主義からかけ離れていった事実が示されている。

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