パナソニックが本腰、欧州白モノ開拓の試練 高付加価値の商品を投入し、シェアの拡大に挑む

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現地企業に勝てるのか

同社が欧州の白モノ家電市場に本格参入したのは09年。それ以前も電子レンジなど一部は手掛けていたが、09年から冷蔵庫や洗濯機など主力の大型製品を投入。12年以降は、調理家電や美容家電など中小型品も投入している。13年7月には、スロベニアの家電大手ゴレーネ社と資本提携を締結。現地での生産や新製品開発の推進にメドをつけた。

ターゲットに据えるのは高所得者層だ。「われわれの強みはエコとスマート。その技術では欧州企業をしのぐ」とパナソニックヨーロッパのローラン・アバディ会長は強調する。日本で培った省エネ技術や機能の高さを欧州でも展開していく。

その一例が、空気中の熱を取り込んで有効活用するヒートポンプ式の暖房機だ。欧州では石油やガスを使う暖房が主流だが、パナソニックは先駆けて同方式の暖房機を投入。二酸化炭素排出量の少なさや省電力性が売りで、需要は拡大基調だという。

中小型品でも高価格帯に照準を定める。注力するのは、コーヒーメーカーなど調理家電、イオン発生機能付きドライヤーなどの美容家電だ。中小型品は新興国メーカーなどの廉価品が市場を侵食するが、「コモディティ製品(汎用品)と価格競争するつもりはない。それを避ける唯一の方法は市場創造型の製品を投入すること。欧州の顧客はハイテクな新製品を探しており、チャンスは多い」とアバディ会長は自信を見せる。

ただし、欧州で白モノ家電を本格展開してから日が浅いパナソニックがシェアを伸ばすのは簡単ではない。白モノ家電はデジタル家電と違い、製品が各国の生活様式に根差しているのが特徴で、それを熟知する地場メーカーが強い。欧州ではオランダのフィリップス、ドイツのボッシュなどが高いシェアを握るほか、「各国に地場の有力メーカーがあり、競合は多い」と、現地市場に詳しい富士経済の有井純子氏は指摘する。

実際、テレビやスマートフォンなどデジタル家電では欧州で圧倒的な存在感を誇る韓国サムスン電子でさえ、「白モノ家電では攻めあぐねている」と欧州の家電メーカー社員は話す。「省エネでの技術力は世界トップクラスでも、国によって要求度合いに差がある。ニーズに見合った投資が必要だ」(有井氏)。

価格下落の激しいデジタル家電で苦汁をなめたパナソニック。白モノ家電でも脱コモディティ化は大きな課題だ。競合との差別化を図りつつ、現地でも受け入れられるヒット商品を生み出せるか。今後の成長に向けた一つの試金石となりそうだ。

(週刊東洋経済2013年9月28日号)

許斐 健太 『会社四季報 業界地図』 編集長

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このみ けんた / Kenta Konomi

慶応義塾大学卒業後、PHP研究所を経て東洋経済新報社に入社。電機業界担当記者や『業界地図』編集長を経て、『週刊東洋経済』副編集長として『「食える子」を育てる』『ライフ・シフト実践編』などを担当。2021年秋リリースの「業界地図デジタル」プロジェクトマネジャー、2022年秋より「業界地図」編集長を兼務。

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