残った男と出された男--MRJを託された同期の桜

残った男と出された男--MRJを託された同期の桜

「俺は航空機に命懸けてきたんだけどな……」。名古屋航空宇宙システム製作所(名航)副所長から産業機器事業部副事業部長への転出を命じられたとき、大宮英明の口からそんな言葉がこぼれ出た。

三菱重工業に入社して30年、設計出身の技術者は航空畑一筋。次の日本を支えるのは航空宇宙だと信じてきた。自らを「CCV(コンピュータによる姿勢制御機)のオーナー」と言うほど入れ込んだ。そんな意気揚々が、突然打ち砕かれた。通常なら、二度と戻ることはない。「ここで航空宇宙への夢を断ち切らざるをえない、と思った」。

戸田が残り、大宮が去った

通告する側の当時名航所長、前沢淳一も切り出すには決心がいった。「ひょっとしたら辞めると言うかもしれない」。大宮はいずれ三菱重工の中核を担うはずの人物。「もし彼があそこで潰れていたら、自分の責任だった」。院卒で2歳年上の前沢も航空工学出身。子どもの頃から、空に取りつかれて大人になったヒコーキ野郎のショックは、わかりすぎるほどわかる。だが上は、副所長のうちどちらかを出すよう迫った。次の所長になれるのは1人きり。

 名航に残ったもう一人の副所長が戸田信雄だった。この3人、実は同期入社。特に大宮と戸田は東大から一緒で、入社当時は寮も相部屋だった。若い頃の行状もお互いよく知る、ツーカーの仲だ。

あれから7年。前沢はボーイングと日本側の航空機開発で仲介業務を担う民間航空機の社長に、大宮は三菱重工の、航空畑を歩み続けた戸田は三菱航空機の社長になった。三菱重工が全力で取り組むMRJは、前沢が航空宇宙事業本部長時代に経済産業省との間で検討が始まり、大宮と戸田の同期コンビによる強力タッグの下で進行している。

あのとき、なぜ前沢は大宮を出したのか。当時、三菱重工は、F2支援戦闘機の主翼の強度不足問題に揺れていた。「これをトコトン解決するなら戸田君だった」という。戸田の技術的な識見の深さと集中力、そして粘り強さ。

では製造担当だった大宮は、選択から漏れたがゆえの、“不運”の転出だったのか。答えはノーだ。当時産機事業部長で、現会長の佃和夫が自分の後釜にと、大宮を引っ張ったのだ。バイタリティにあふれ、異なる環境ややり方を柔軟に受け止め、吸収する能力。それが大宮の持ち味だ。

別世界に飛び込み視野は広がった

 大宮は、潰れるどころか、たちまち産機事業部にハマった。500人の小所帯の密な人間関係。名航とは事業特性も違えば、業務の進め方もまったく違う。アンテナをビンビン反応させた。「ベストプラクティスを探し出して、組織体を高めることにすごく興味があった」。

だが産機事業部に席を温める間もなく、1年後、今度は赤字続きの冷熱事業本部に駆り出される。ここが輪をかけて面白かった。客先が決まっている航空機と違い、冷熱は販路構築も自分たちでやる。海千山千、国内外のたたき上げの社長サンたちとの丁々発止は、役所や大企業の雇われ社長にはない刺激を受けた。ここで大宮は視野を広げた。

冷熱では、しがらみのなさを武器に販路整理など事業再編を断行し、3年目で黒字化にこぎ着けた。そして、現在全社で進める共通化・標準化の土台を中量産品ビジネスで学んだ。大宮は冷熱事業を「第2の故郷」と呼ぶ。

三菱航空機常務で、MRJのプロジェクトマネージャーを務める宮川淳一は、「昔はトンガってたけど、大宮さんは変わった。多分、産機、冷機へ行って、人間が大きくなった」とかつての上司を評する。

あえて言えば、鋭く緻密な技術肌の戸田と、俯瞰して全体をとらえる製品企画屋タイプの大宮。互いを補完し合う。戸田の好きな言葉は「I’m possible」。「impossibleのimとpossibleを切り離し、iの後にアポストロフィをつけると」、不可能だって可能になる。

大宮の若い頃の趣味はスカイダイビングだった。ある時、パラシュートが開かない。地上まであと20秒、10秒。リザーブのひもを引いたら、開いた。危機の時も冷静さを失わず、もちろん、運も強い。全機開発に今踏み込まなければ、航空機事業に先はないという共通認識の下、いったんは別々の道を歩んだ2人のヒコーキ野郎が、MRJで再び力を合わせる。
=敬称略=

(週刊東洋経済編集部)

とだ・のぶお(写真上)
1945年生まれ。東京大学工学部航空学科卒業、69年三菱重工業入社、名古屋航空宇宙システム製作所に配属。同所長、航空宇宙事業本部長等を経て、2008年4月より現職。
おおみや・ひであき(写真下)
1946年生まれ。東京大学工学部航空学科卒業、69年三菱重工業入社、名古屋航空宇宙システム製作所に配属。冷熱事業本部長、副社長等を経て、2008年4月より現職。

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