38歳「マイナー漫画」に鉱脈を探る男の執着心 単行本を作るまでにこじらせた劇画狼の人生

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自力で単行本を作り、そして成功させた劇画狼さんに聞く(写真:筆者撮影)
これまでにないジャンルに根を張って、長年自営で生活している人や組織を経営している人がいる。「会社員ではない」彼ら彼女らはどのように生計を立てているのか。自分で敷いたレールの上にあるマネタイズ方法が知りたい。特殊分野で自営を続けるライター・村田らむと古田雄介が神髄を紡ぐ連載の第18回。

ふと目にした短編漫画に心を奪われたことはないだろうか?

友達の家や病院の待合室かどこかで、ふと手に取った雑誌に載っていた心に残る一編の短編漫画。「あの漫画もう1回読みたいな」と後から思っても、なかなか難しい。ほとんどの短編漫画は単行本として刊行されない。もう2度と読めないし、人にも勧められない。

そんなとき、あなたはどうするだろうか?

・素直に諦める

・掲載されている古本の雑誌を探す

・出版社に単行本を出してくれるようハガキを出す

できる行動はこれくらいだろう。

自力で愛する作家の単行本を作ってしまった

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今回紹介する劇画狼さん(38)は、なんと自力で愛する作家の単行本を作ってしまった。誰もが思いつきはするが、実行する人はきわめて少ない行動だ。そして成功させるのはとてもとても難しい。

劇画狼さんは京都生まれの京都育ち。大学以降は大阪で活動している。

あべのハルカス近くの喫茶店で待ち合わせをした。現れた劇画狼さんは文化系の活動をしている人という印象はなかった。腕がやたらに太く、拳には格闘技経験者特有のキズがある。なかなかいかつい雰囲気を醸し出しているけれど、表情と口調は柔らかくてホッとした。

彼が、単行本を作るまでの道のりをうかがった。

「すごく普通の家庭環境でしたね。両親の仲もめっちゃいいし。少し変わったことと言えば父親が『息子を絶対に甲子園に行かせたい!!』と願っている人でした」

本人は野球をそれほど好きではなかったが、とにかくスパルタで野球を叩き込まれた。

「ちょっとオカルト入ってましたね。小学生のときに『これを食べたら絶対に野球うまくなるから!』って言われて、甲子園の土と神宮球場の土を食べさせられました(笑)」

欲しいものはなかなか買ってもらえなかったが、野球に関してのみ財布のひもがゆるかった。野球に関係していて、かつ楽しめるモノを探して買ってもらっていた。たとえば漫画『アストロ球団』(原作 遠崎史朗、作画 中島徳博)にはすごくハマった。

「当時、ハマっていた漫画はほかには、ゆでたまご先生の作品(『キン肉マン』など)や『魔界ゾンべえ』(玉井たけし)などですね。面白ければ何でもアリ!! という漫画が好きでした」

中学校に進学する際、『スラムダンク』(井上雄彦)(井上が流行っていたこともあってバスケットボール部に入ろうとしたが、父親はすでに軟式野球道具を買い揃えていて、

「入学までに慣らしておけ!」

と言われた。親には逆らえず、中学校3年間も野球に明け暮れた。中学3年生の夏やっと野球をやめられると思ったら、父親は硬式野球道具を買い揃えていて、

「半年間で慣らしておけ!」

と言われた。

「しかたなく高校も一応野球部には入ったんですが、さすがに好きじゃないことを続けていくのは無理だなって思いまして、高1の冬にやめました。以前からずっと格闘技に興味があったんですが、近所に格闘技ジムがなかったので、大学に入ってから始めようと決めました」

次ページ格闘技に耐えうる体作りにはげむために…
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