現代版の魔法「ナッジ」が日本に上陸 1枚のレポートが人の心を動かす

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日本オラクル
CEO
フランク・オーバーマイヤー
発表会では、今回の実証事業のために開発した「そらたん」を手に戦略を語った

今回、同社が着目した日本の特異性は、広範で根強いキャラクター文化、高いモバイル利用率、地域密着型のエネルギー事業者の存在という3点だ。そしてナッジ事業の初年度はまず、キャラクター文化を取り込むことにした。事業対象となる30万世帯のうち、15万世帯にはこの事業のために開発したキャラクター「そらたん」のイラストが入った省エネレポートを送り、残りの15万世帯には入っていない従来のオラクルモデルと同じ省エネレポートを送付する。「そらたん」は、エネルギー事業者の代弁者として、CO2削減効果につながるようなメッセージを分かりやすく伝えるのが役割だ。

「実は、さらに別の3万世帯には省エネレポートを送らず、エネルギー事業者の通常の『お知らせ』だけ送ります。そうして、キャラクター入りレポート、キャラクターなしのレポート、レポートなしという三つのカテゴリーに分け、それによる省エネ行動の違いを新薬の開発でも使われる非常に厳密なランダム化比較対照実験という効果測定法で検証します」(村井氏)

平均2.0%のCO2削減を目指す

数%の効果を積み重ねていくしかない

次年度からは、モバイルの活用や地域との連携なども取り込んでいくことを計画している。また、家庭を対象にしたこの実証事業とともに、学校や職場での省エネ教育などもすでに並行してスタートさせている。

「30万世帯という規模は、国内では最大ですし、海外でもあまり例がありません。これだけの規模があれば、そこで得られた統計数字は非常に有効性の高いものになり、日本版ナッジモデルを確立できれば、今回対象となっていない国内の他地域でも展開可能になるでしょうし、条件が似ている地域であれば海外でも展開できるようになると考えています。全国の主要なエネルギー事業者様5社にご参加頂けることで、この実証事業は非常に大きな意義があるものとなりました」と、村井氏は語る。

オラクルが海外で行ってきたナッジ事業は、世界で平均2%のCO2削減効果を達成してきた。今回の日本での事業も、2%程度の削減効果を見込んでいる。2%というと、ずいぶん小さな数字のように思えるかもしれないが、住環境計画研究所・会長の中上英俊氏が発表会でこう語っていたのが印象に残っている。

「CO2排出量を一気に10%も20%も削減できる方法などありません。1%、あるいは0.1%の効果を少しずつ積み上げていくしかないのです。最終的には消費者の行動が決め手になるのですから、今回の事業は非常に重要な意味を持っています」

仮に日本の全家庭で2%の省エネ効果を達成できれば、年間約300万トンのCO2を削減するのと同じことになる。これは、省エネ型の冷蔵庫2,600万台分の買換効果(投資金額で約3兆円)に相当するインパクトだ。

生活者一人ひとりの行動をいかに変えることができるか。その結果として日本社会で地球環境問題をめぐるパラダイムシフトが起きるかどうか。5年計画で行われるこのナッジ実証事業の今後の推移に、大きな期待がかかっている。

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