現代版の魔法「ナッジ」が日本に上陸 1枚のレポートが人の心を動かす

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11月13日に行われた発表会には環境省に加え、実証事業に携わるエネルギー事業者5社、住環境計画研究所、日本オラクルが一堂に顔をそろえた
日本オラクルは、日本初の大規模ナッジ実証事業を開始すると発表した。ナッジ(nudge)とは、「そっと後押しする」という意味の英単語で、行動経済学の理論を活用して社会、環境、自身にとってより良い行動を促すことを指す。今年度ノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のリチャード・セイラー教授らが公共政策への活用を提唱したことで注目を集めているが、そのナッジを省エネに生かす取り組みが始まる。今後5年間かけて日本版ナッジのモデルを確立できれば、日本社会にドラスティックなパラダイムシフトが起きる可能性もある

「行動経済学」を使うと、なぜ省エネしようと思うのか

この実証事業は、環境省の「平成29年度低炭素型の行動変容を促す情報発信(ナッジ)による家庭等の自発的対策推進事業」の委託を受けたもので、北海道ガス、東北電力、北陸電力、関西電力、沖縄電力のエネルギー事業者5社に加え、家庭用エネルギーの調査・研究を行うシンクタンクの住環境計画研究所、そして日本オラクルが参加する。対象となるのはガス・電力5社の各管内約6万世帯、計約30万世帯で、世界的にもあまり例をみないほどの大規模なナッジ事業となる見込みだ。

初年度は来年3月までに計4回、30万世帯に省エネレポートが送付される。このレポートは各世帯にパーソナライズされたもので、電気やガスの使用量やその推移がわかるとともに、省エネのためのアドバイスなどが記載される。このレポートに活用されるのが行動経済学の知見だ。日本オラクルで同事業を担当する村井建介氏が説明する。

日本オラクル
ユーティリティ・グローバル・ビジネスユニット
セールスディレクター
村井建介

「たとえば、『エアコンの代わりに扇風機を使えば、電気代が◯◯%下がりますよ』と提示しても、省エネ行動を促す効果はあまり期待できません。しかし『あなたとよく似たご家庭はすでに扇風機を使っていますよ』や『あなたの電気料金はよく似たご家庭より年間で2万円上回っています』と記載すると、行動経済学でいう社会規範や損失回避の心理が働き、省エネをしようという気持ちが促されます。そのためにどうすればいいかというアドバイスにも行動経済学を用い、エアコンを買い替えるといった投資が必要な難易度の高いアドバイスと、生活の仕方を少し変えるといった簡単にできるアドバイスを同時に提示します。そうすると人の心理は、難易度の低いほうに心が動きます。大切なのは、生活者一人ひとりが自発的に行動を変えることなのです」

ナッジというのは「そっと後押しする」という意味の英語。行動経済学の知見も使って生活者の肩をそっと押し、一人ひとりが日々の生活を低炭素型の方向に少しずつ変えていくようにするのである。

ちなみに村井氏が言う「よく似た家庭」というのは、近隣に位置する家庭であり、家族構成や住宅の形態、電気・ガスの料金プランなど共通点が多くみられる家庭ということ。村井氏によれば「非常に厳密に定義」しているという。各エネルギー事業者の管内から、各家庭とよく似た家庭を抽出し、電気・ガス使用量を比較するだけでも膨大なデータを活用した分析になる。 ビッグデータの解析技術は、行動経済学とともにこの事業を支える柱になる。そこで大きな役割を果たすのが、オラクルのテクノロジーというわけだ。

日本版ナッジモデルの確立を目指す

実はオラクルは、2007年からこうした実証事業を10カ国約100社のエネルギー事業者と組んで行ってきた実績がある。11月13日に行われた発表会の席上、日本オラクル・CEOのフランク・オーバーマイヤー氏は、その結果についてこう語った。

「こうした取り組みにより、全世界で平均2.0%の持続的な省エネ効果を実現してきました。これは約1200万トンのCO2排出量削減、約2280億円の光熱費低減に相当する数字です。オラクルはナッジ事業を展開するオラクルモデルを確立し、その知見、テクノロジーを日本でも展開してCO2削減に貢献していきます」

ただし、オーバーマイヤー氏はこう付け加えるのも忘れなかった。

「グローバルで実績のあるモデルをそのまま日本に持ってくるのではありません。日本の特異性に合わせた形で展開し、日本版のナッジモデルの確立を目指します」

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