「医師とメディア人」二足のわらじを履く理由 あの英誌「ネイチャー」が選んだ日本人女医

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「マドックス賞」事務局によるリリース。同賞の日本人受賞は初めてだ(編集部撮影)
世界屈指の科学論文誌、英『ネイチャー』などが主宰する「ジョン・マドックス賞」。2017年の受賞者が医師・ジャーナリストの村中璃子氏に決定し、11月30日に授賞式が行われた。
この賞は、22年間『ネイチャー』誌の編集長を務めたジョン・マドックス卿を記念して創設され、多くの困難に遭いながらも科学的なエビデンスに基づき公益に寄与する仕事をした科学者・ジャーナリストに贈られる。今年で6回目、世界25カ国95人の候補者から選ばれた。日本人の受賞は初めてとなる。
村中氏は、2015年から副反応に揺れる子宮頸がんワクチン※1問題に、医師ならではの視点で鋭く斬り込みながらも一般人にわかりやすい記事を多数執筆した。審査講評では「この問題が日本人女性の健康だけでなく、世界の公衆衛生にとって深刻な問題であることを明らかにしたこと」が高く評価されている。

一般の議論にサイエンスの視点を持ち込む

――「ジョン・マドックス賞」受賞の意味は。

村中:HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)問題では、科学的根拠に乏しい「オルタナティブファクト(ねじまげた事実)」が専門的な知識を持たない人たちの不安に寄り添うように広がっている。私は医師として、守れるはずの命や助かるはずの命をいたずらに奪う言説を見過ごすことができない。

一連の記事執筆を始めてから、法的手段を含めさまざまな妨害や攻撃に遭っているが、この賞で、一般の議論にサイエンスの視点を持ち込んだこと、それを日本国内の問題としてだけでなく世界の問題として発信したことが評価されたことはうれしい。子宮頸がんワクチン問題は、米国やデンマーク、アイルランドなどでも起きていて、南米コロンビアでは、今年8月、日本に1年遅れて、世界で2番目の国家賠償請求訴訟が提起されている。

※1 子宮頸がんワクチン 正確にはヒトパピロマウイルス(HPV)ワクチン。子宮頸がんの90%以上はHPVの感染が原因とされ、WHO(世界保健機関)も感染予防のためにワクチン接種を推奨している。日本でも2009年に承認され、2013年4月から定期接種となった。だが、一部メディアによって、接種後の激しい身体症状の原因と報道された。2016年7月には東京など4地裁に63人が薬害を受けたとした集団訴訟。このため、国内の子宮頸がんワクチン接種率は70%台から1%未満にまで低下。グローバルな公衆衛生の問題として事態を重く見たWHOは、2度にわたり日本を名指しして警告を発している。
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