太平洋戦争「開戦の日」に考えてほしいこと 現代史は日本人が学ぶべき最重要科目である

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1つは、自己中心の物語を持つ国アメリカでも、国の行きすぎたプロパガンダ政策を冷静に批評する学者はいたということ。もう1つは、実際の日本人が当時のアメリカ人が考えたようなファナティックで、好戦的で、危険な人間ではなかったように、今日、われわれがファナティックで危険な国民と思い込んでいる北朝鮮のような国の人々も、実際には文化的で平和的な人々であるかもしれないのだ。

勇気をもって敗者の現代史を学べ

『丹羽宇一郎 戦争の大問題』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

われわれ日本人には勝者の現代史はない。あるのは敗者の物語だ。だが、勝者の歴史は勝者を正当化するため、過去の出来事を脚色し、勝者の正当化を図る。一方、敗者の歴史は過去の事実を粉飾する必要はなく、歪曲することも求められない。

勝者の歴史は、過去から現代までで終わるが、敗者の歴史は過去の事実から学んだことを未来のために生かす。敗者である日本の現代史は、未来志向の歴史なのである。

日本の現代史は敗者の物語であるが、日本人はあえて敗者の現代史を、勇気を持って学ぶべきである。そして、学ぶべき眼目で最大のものが、戦争をしない、戦争に近づかないための知恵である。

戦争は国民を犠牲にする。戦争で得する人はいない。結局みんなが損をする。特に弱い立場の人ほど犠牲になる。日本は二度と戦争をしてはいけない。これは敗者の歴史からしか学べないことだ。だから日本人は現代史を学ぶべきなのである。

戦争を実際に知っている人がいなくなっている今日、日本人は文献や記録からだけでも戦争を知らなくてはいけない。現代史は日本人が学ぶべき最重要科目である。

私は「あの戦争は正しかった」という発言があってもよいと考えている。問題は正しかったか、間違っていたかではないからだ。

アメリカは広島、長崎への原爆投下を正しかったとしている。しかし、原爆投下の判断がどんなに正しかろうとも、原爆がもたらした惨状を肯定できるはずがない。正しかろうと、正しくなかろうと、人々を不幸のどん底に突き落とす戦争をしてはいけない。戦争が引き起こす悲惨さを、戦争なのだから仕方がないで済ませるようであれば、世界は日本国民を歴史から学ぶことを忘れた愚か者と言うだろう。

戦争に近づいてはいけない。これを日本のみならず、世界各国の共通の歴史認識としていくことが、日本国民の叫びであり、われわれが現代史を学ぶ意味とすべきだ。これが開戦の日である今日12月8日に私が言いたいことである。

丹羽 宇一郎 日本中国友好協会会長

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にわ ういちろう / Uichiro Niwa

1939年愛知県生まれ。名古屋大学法学部を卒業後、伊藤忠商事に入社。同社社長、会長、内閣府経済財政諮問会議議員、日本郵政取締役、国際連合世界食糧計画WFP協会会長などを歴任し、2010年に民間出身では初の中国大使に就任。現在、公益社団法人日本中国友好協会会長、一般社団法人グローバルビジネス学会名誉会長、福井県立大学客員教授、伊藤忠商事名誉理事。著書に、『丹羽宇一郎 戦争の大問題』東洋経済新報社、『人間の器』幻冬舎、『会社がなくなる!』講談社など多数。

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