またミサイル!北朝鮮は「第2のキューバ」へ 核ミサイル問題は何十年もの膠着状態が必至

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米議会調査局が10月27日に米議会に送った新たな報告書では、朝鮮半島で再び戦争が起きれば、核兵器が使用されなくても最初の数日だけで数十万人の命が失われる可能性がある、と指摘された。軍事衝突が起きた場合、「軍事境界線を挟む韓国と北朝鮮の両方で、少なくとも10万人の米国民を含む2500万人程度に影響が及ぶ恐れがある」と分析。さらに1分間の発射弾数1万発という北朝鮮の能力に言及し、同国が「通常兵器だけを使用する」場合でも、「最初の数日の戦闘で3万~30万人の犠牲者が想定される」との見解が示された。

また、仮に米国が北朝鮮を攻撃し、金正恩体制を崩壊させても、最低26万~40万人の地上部隊が安定化任務に必要になる、との2011年の試算がある。これは、イラクやアフガニスタンに米軍が派遣された際の約10万人規模をはるかに超える。米国がそれを担うだけの財政的、人的余裕があるとは思えない。

金正恩はフセインやカダフィにはならない

核兵器を持たずに崩壊したイラクのフセイン政権や、核兵器を放棄して崩壊したリビアのカダフィ政権を踏まえれば、北朝鮮の金正恩氏が米政権といかなる核合意も結ぶ可能性はきわめて低い。ましてトランプ大統領は、イランとの核合意はおろか、パリ協定も環太平洋経済連携協定(TPP)も、一気にひっくり返してしまう人物だ。米国が北朝鮮を信用していないのと同様、北朝鮮も米国を信用していない。したがって、北朝鮮が核開発を凍結したり、放棄したりする可能性は低いとみている。

もちろん、北朝鮮はトランプ政権の出方をうかがうために米国と対話はするだろうが、本気で核ミサイル放棄をするはずがない。自らの体制の維持のために、米国中枢部に着弾できる核弾頭搭載のICBMの実戦配備を、何よりも急いでいるはずだ。

思えば、米国は50年以上キューバに経済制裁を科し、バラク・オバマ政権でようやく制裁を解除した。北朝鮮はキューバのように、制裁を長年ずっと科され、封じ込めに見舞われることになるだろう。北朝鮮は「第2のキューバ」になる可能性が高い。

高橋 浩祐 米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

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たかはし こうすけ / Kosuke Takahashi

米外交・安全保障専門オンライン誌『ディプロマット』東京特派員。英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』前特派員。1993年3月慶応義塾大学経済学部卒、2003年12月米国コロンビア大学大学院でジャーナリズム、国際関係公共政策の修士号取得。ハフィントンポスト日本版編集長や日経CNBCコメンテーターなどを歴任。朝日新聞社、ブルームバーグ・ニューズ、 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、ロイター通信で記者や編集者を務めた経験を持つ。

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