「今治タオル」人気が直面する11年目の試練 今こそ独自性や付加価値を発信するチャンス

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丸栄タオルの生産工場で糸を紡ぐ様子。糸の段階から純白の美しさが感じられる(筆者撮影)

現在、丸栄タオルは「今治浴巾(いまばりよっきん)」という自社ブランドの展開に力を入れています。

2017年8月にはプロ野球・東京ヤクルトスワローズのホームゲームに丸栄タオルが協賛しコラボレートタオルを開発するなど、ユーザーの裾野を広げるためにさまざまな試みを行っています。

今治の知名度にあぐらをかくことなく、自分たちの価値を提供したいと考えている地元企業は他にも存在しますが、実際にブランドを立ち上げたりショップを展開したりする企業は限られています。今治タオルが売れていることでOEM(他社ブランドの製品を製造すること)での生産に追われ、独自の取り組みに専念できないのです。

発注の増加は工場にとって喜ばしいことです。しかし、自分たちの独自ブランドを作り、育てる機会が失われているとも捉えられます。安定して案件が舞い込むため、現状に満足してしまうことで淘汰されることへの危機感が薄れる可能性もあります。

もちろん、自社ブランドの立ち上げだけが選択肢のすべてではありません。どこかで何かしらのリスクを背負わなければ、 もし仮に他の地域で新しいタオルブランドが生まれたり、組合が分裂したりした場合、その途端に経営は危うくなります。

独自性の発信は、地域ブランドの強化に還元

冒頭の「降って湧いた産業だった」という藤原さんの言葉は的を射ていると思います。もしJB事業に採択されていなかったら、もし佐藤氏がクリエイティブディレクターを引き受けていなかったら。他力本願だったとは思いません。すばらしい品質の製品を作り続けてきたからこそ、幸運が訪れたのだと思います。

多くの人たちから注目を浴びている今だからこそ、自分たちの独自性や付加価値を発信するチャンスであり、それは地域ブランドの強化にもつながります。たとえば今治浴巾が有名になれば、今治という名前をいい意味で利用しつつ、結果として今治ブランドに対する知名度や信頼度もより高まるのです。

地域ブランドの確立は一筋縄ではいきません。利害が生じて足並みが揃わないこともあれば、ようやくブランドが浸透し始めたとしても、馴れ合いになって前進を怠れば淘汰される可能性だってあります。

とはいえ、同業会社との横のつながりを重んじつつ、自分たちの足で立つというフロンティア精神を各々が持っていれば、簡単に地位が揺らぐことはないでしょう。

”地域ブランドの形成に必要なのは、地域ブランドに頼らないことである”

逆説的ではありますが、これも1つの答えだといえるでしょう。

山田 敏夫 ファクトリエ代表

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やまだ としお / Toshio Yamada

1982年熊本県生まれ。大学在学中、フランスへ留学し、グッチ・パリ店で勤務。卒業後、ソフトバンク・ヒューマンキャピタル株式会社へ入社。2010年に東京ガールズコレクションの公式通販サイトを運営する株式会社ファッションウォーカー(現:株式会社ファッション・コ・ラボ)へ転職し、社長直轄の事業開発部にて、最先端のファッションビジネスを経験。2012年、ライフスタイルアクセント株式会社を設立。2014年中小企業基盤整備機構と日経BP社との連携事業「新ジャパンメイド企画」審査員に就任。2015年経済産業省「平成26年度製造基盤技術実態等調査事業(我が国繊維産地企業の商品開発・販路開拓の在り方に関する調査事業)」を受託。年間訪れるモノづくりの現場は100を超える。

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