ほぼ日、上場初の「株主ミーティング」の全貌 計8時間半、講演会や質問会も開催

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「八百屋の店主が店頭のリンゴを食べても何も起こらないが、百貨店の株主が店頭のリンゴを食べればお縄になってしまう」という例から、自営業の所有者と株式会社の所有者が違うことを説明。中世のキリスト教の教会に遡り、法人がモノとヒトの両面を持つに至った経緯を解き明かした。

早口で熱くまくしたてる岩井教授。最近は経済学の新理論構築に専念。寝ても覚めても数式で頭がいっぱいなのだとか(記者撮影)

モノとしてのみ法人を見れば「会社は株主のモノ」だが、ヒトの側面を見れば「会社はヒトであって株主のモノではない」と論理展開。「株式会社になるということは社会的存在になることであり、社会性を極限にまで広げたのが上場企業だ」と解説した。

「『利益を追求しない』と言っている会社が最も利益を上げているのが今の世の中だ」とも指摘。「米グーグルは資本主義的でないことを旗印としている。お金で買えないものを提供すると言っている」(岩井教授)。

「利益を追求しない点でほぼ日はグーグルと同じ」と持ち上げる一方で、「改めて勉強してみたが、ほぼ日という会社の社会的使命はどうもはっきりしない」とピシャリ。「そんな変な会社の株主は何をすべきか。外部の目で刺激を与えるのが株主の使命」として講演を閉じた。

その後「コンテンツについての座談会」「糸井、篠田、ほぼ日乗組員の質問会」と続き、「株主ミーティング」は午後6時半に閉場となった。

「上場して道幅が広くなった」

糸井代表の無手勝流ぶりは、総会と講演の間の囲み取材でも存分に発揮された。今回の囲み取材は、総会本会場の上階にある宿泊施設のツインルームで、集まった4人の記者が2台のベッドに座り、糸井代表が椅子に座って対応するという異例のスタイルで行われた。

総会のお土産は、12月から本格販売するアースボール。ビーチボールタイプの地球儀だが、四角い箱に空気を抜いて入っていた(記者撮影)

印象的だったのは上場のメリットについて聞かれた時の受け答えだ。糸井代表は「交通量が増えた。道幅が広くなった」と即答。「上場前はくねくねした山道をいっぱい知っていた。(それで重要な人とつながっていたが)上場してみたら幹線道路ができていた。上場前は『どうせ趣味でやっているのでしょ。いつか飽きてしまうのでは』という目で見られていたが、上場すると『本気でやっていると信じていいのですね』と思われるようになった」と独特の言葉で表現。

「たとえばジャパネットたかたの高田明さんと話をしても、上場前だと趣味人がインタビューしているような感じになる。ところが『これ、うちに売らしてくれませんか』とBtoBの取引を真剣に考えてもらえるようになった」(糸井代表)。

ほぼ日の初めての「株主ミーティング」。囲み取材で「株を買う人は『従業員の目が生き生きしているか』かなんて無視。株を買う人は『誰がやっても儲かるビジネスモデル』に着目するが、実はそうじゃない。同じビジネスモデルなら従業員が目を輝かせて自由な発想をしている会社が伸びる」と語っているのが印象的だった。

山田 雄一郎 東洋経済 記者

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やまだ ゆういちろう / Yuichiro Yamada

1994年慶応大学大学院商学研究科(計量経済学分野)修了、同年入社。1996年から記者。自動車部品・トラック、証券、消費者金融・リース、オフィス家具・建材、地銀、電子制御・電線、パチンコ・パチスロ、重電・総合電機、陸運・海運、石油元売り、化学繊維、通信、SI、造船・重工を担当。『月刊金融ビジネス』『会社四季報』『週刊東洋経済』の各編集部を経験。業界担当とは別にインサイダー事件、日本将棋連盟の不祥事、引越社の不当労働行為、医学部受験不正、検察庁、ゴーンショックを取材・執筆。『週刊東洋経済』編集部では「郵政民営化」「徹底解明ライブドア」「徹底解剖村上ファンド」「シェールガス革命」「サプリメント」「鬱」「認知症」「MBO」「ローランド」「減損の謎、IFRSの不可思議」「日本郵政株上場」「東芝危機」「村上、再び。」「村上強制調査」「ニケシュ電撃辞任」「保険に騙されるな」「保険の罠」の特集を企画・執筆。『トリックスター 村上ファンド4444億円の闇』は同期である山田雄大記者との共著。

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