「忖度疲れ」で追い詰められる人の精神構造 「忖度を要求する人」から身を守る正しい方法

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こういう場合は、たとえ何を要求しているのかうすうす察しがついていても、しらばっくれるのが1番だ。だから、わからないふりをする、もしくは「誠意とはどういうことでしょうか?」「どんなふうに誠意を見せればいいのでしょうか?」などと尋ねることをお勧めする。向こうはいら立って暴言を吐くかもしれないが、そこで恐れをなして、中途半端に忖度などしてはいけない。あくまでも、「言葉ではっきりおっしゃってください」という態度を貫くべきである。

同様の態度を、言葉ではっきり伝えずに仕事を押し付けて責任転嫁しようとする同僚に対しても示すほうがいい。たとえば、同僚が、本来自分が作成すべき書類を、黙って、あなたの机の上に置いているような場合である。あなたが引き受ける筋合いのない仕事ならば、無視して差し支えない。

もっとも、狡猾な人ほど、罪悪感をかき立てて責任を押し付けるようなことを平気でする。「お互いに助け合わなければならない」という一般論を持ち出したり、「協調性がない」とあなたを責めたりして、何とか仕事を押し付けようとするかもしれない。

このような手口に乗せられてはいけない。「どういう理由で、あなたの仕事を私が代わりにやらなければならないのですか?」「なぜ、あなたがこの仕事をしないのですか?」などと質問して、仕事を押し付けようとした理由を明確にしておくほうがいい。

気まずい思いをしたくないから、あるいは波風を立てるのが嫌だからということで、同僚の気持ちを忖度して1度でも引き受けてしまうと、その後もずっと押し付けられかねない。そうなれば、向こうの思うつぼである。こうした事態を避けるためにも、最初に明確にしておかなければならない。

向こうの説明があいまいだったら、さらに尋ねて、決してあやふやなままにせず、明確にするのだというこちらの意思を示しておくべきだ。そうすれば、手強い奴と思われて、敬遠されるだろうから、余計なことを押し付けられずに済む。

「空気が読めない」ことを逆手に取る

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このようにできるだけ言葉で明確にすることを続けていると、「空気が読めない」と中傷されるかもしれない。しかし、忖度は日本社会の宿痾であり、その最大の原因が「空気」の支配である以上、「空気が読めない」ことを逆手に取ったほうが生きやすい場合もある。「空気が読めない」人は、当然「空気」に支配されることもないのだから。

もちろん、「空気」をある程度読むことは、組織の中で生き延びるために必要だろう。ただ、その「空気」を何となくおかしいと感じるセンサーの感度が低下しないように気をつけなければならない。

そして、何となくおかしいと感じたら、あえて忖度しない勇気、時には水を差す勇気を持ちたいものである。

片田 珠美 精神科医

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かただ たまみ / Tamami Katada

広島県生まれ。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。京都大学博士(人間・環境学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。2003年度~2016年度、京都大学非常勤講師。臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。著書に『他人を攻撃せずにはいられない人』(PHP新書)、『賢く「言い返す」技術』(三笠書房)、『他人をコントロールせずにはいられない人』(朝日新書)など多数。

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