高所得層に「増税」、低所得層に「減税」が筋だ 給与所得控除と基礎控除を合わせて議論せよ

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所得税改革では所得格差是正を実現しなければならない(写真:Graphs / PIXTA)

11月22日、自民党税制調査会は総会を開き、2018年度の税制改正に向けた議論が本格的に始まった。

来年度の税制改正に向けては、「たばこ税」や「出国税(観光促進税)」、「森林環境税」の話題も出る中、影響を受ける人数も税収でも、圧倒的に大きいのは所得税だ。今回の焦点は、本連載の拙稿「所得税の控除はなぜこうもフェアでないのか」でも触れた、所得税制における公的年金等控除と給与所得控除である。

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なぜ今、これらの所得税制をいじる必要があるのか。増税がしたいからか。そうではない。「所得再分配機能の回復」、つまり、「所得格差是正」を早期に行うためだ。特に世代間格差の是正は、遅らせれば格差を縮める機会を失ってしまう。ただ、低所得層に恩恵が及ぶような給付増や減税をするだけでは、所得格差は縮まらない。そのための財源も必要となる。低所得層に恩恵が及ぶような減税をすると同時に、高所得層には増税をセットで行うことで、初めて所得格差が縮小できる。全体としては税収中立(増減税ゼロ)とすることを想定している。

給与所得控除を減らせば高所得層のみメリット

その方向性は、有識者や経営者など専門家で構成される政府税制調査会(内閣総理大臣の諮問機関)が11月20日に取りまとめた報告書、「経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告2」に打ち出されている。

そこでは、個人所得課税の課題の1つとして、「公的年金等控除」と「給与所得控除」(これらをまとめて所得計算上の控除という)の問題点を挙げた。公的年金等控除については、年金を受ける高齢者しか使えないのに、給与所得控除のほうは、勤労世代だけでなく給与を得た高齢者も使えるようになっている。高齢者は両方の控除を併用できていることを指摘した。これによって、同じ課税前収入なのに控除額が勤労世代より多いため、高齢者の税負担が軽くなるという支障が生じる。

このうち「給与所得控除」については、給与の形で収入を得ている人は控除を受けられるが、仕事内容が同じでも、請負契約など”雇用的自営”と呼ばれるような形で働いている非正規労働者は、給与の形で収入を得ていないので給与所得控除が使えない、という問題点を指摘した。これによって給与所得控除は、確かに給与を稼ぐ際に生じる経費を、領収書なしで概算で認め、その分だけ税負担を軽くするようにしているのだが、概算にしては控除が手厚い部分がある。

つまり、給与所得控除が概算となっていて、実態とはかけ離れて手厚いという問題点を正面切って議論し始めると、高所得層まで含めて、みなおしなべて控除を実態に合うように減らせ、という話となる。かといって控除を減らせば、税負担額が多くなり、低所得層にとっては増税、という話になってしまう。それでは、所得再分配機能の回復という、所得税改革の大義に逆行してしまう。

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