広がる「官製婚活」、成果は出ているのか? 自治体の婚活支援は活況だが、課題も多い

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婚活サイトや婚活パーティ、結婚相談所など多角的に婚活支援を展開しているIBJも、ツヴァイ同様、自治体から結婚支援のセミナーやイベントを受託している。IBJが現在、力を入れるのが「婚活サポーターセミナー」だ。これは自治体の婚活支援ボランティアに、自社の結婚相談所で培ってきたノウハウを伝授するもの。「実際に何をすればよいのかわからないボランティアの方も少なくないので、当社のノウハウを学んでスキルアップしてもらう。そうして育成した人材を婚活の“地域資産”として活用していただきたい」(常見哲明・IBJ事業企画室事業統括マネジャー)。

結婚相談所を多店舗展開するパートナーエージェントは、自社開発のマッチングシステムを京都府と福島県に提供している。民間企業にとっては、自治体が婚活支援事業に乗り出すことによって結婚相手紹介サービスの認知度が高まり、利用者増につながるのではないかとの期待もある。

カップル成立の数字だけを求める自治体も

こうした「官製婚活」に対しては、事業運営自体の問題点を指摘する声も少なくない。その1つは「単年度主義」だ。「年度ごとに予算化されることから、短期的な成果を求める傾向が強い。参加者何名、うち何組のカップル誕生と成果がはっきり出やすいイベントが好まれるのもそのため」(婚活関連会社の企画担当者)といえる。だが、実際にはイベントで知り合って交際を開始しても、うまくいかないケースもある。「カップル誕生から成婚まで支援するには時間も手間もかかるのだが、それを理解せずカップル成立の数字だけを求める自治体もある」(同)という。

自治体の婚活支援事業の参加者からは「自治体が開催しているので安心感がある」という好意的な声も聞かれる。一方、「思うような条件の相手がいない」「真剣に結婚を考えていない人も参加している」との厳しい意見も出ている。ミスマッチが起きていることについて、自治体支援も手掛ける結婚相談所は次のように分析する。「自治体の婚活支援事業は公共サービスの一環なので参加者をスクリーニングできない。また、利用料が安いこともあって、一定の金額がかかる民間の結婚相談所と比べると職業や年収、熱意などの点で利用者層が異なるのはやむをえない」。

11月に九州・山口9県が合同で開いた婚活・移住支援イベントのチラシ。人口減少が進む中、婚活支援に取り組む自治体には、働く場の創出など「結婚して住みたい街づくり」が一層求められている(提供:ツヴァイ)

民間企業のシステム担当者は、婚活向けのマッチングシステム導入を検討している自治体からある“無理難題”を持ちかけられたと打ち明ける。「複数の自治体との連携も考えているが、ほかの自治体の住民からこちらの住民への交際申し込みだけができるような一方通行の仕組みはできないか」というものだ。成婚の可能性を高めるためには一定の地域的広がりも必要になってくるが、自治体ならではの「エゴ」がそれを妨げることもある。

そもそも、自治体にとっては婚活支援自体が目的なのではなく、成婚したカップルがその地域にそのまま住み続ける、あるいは成婚を機に移住してくれることが重要だ。そのためには、起業を含めた就労機会の創出など多角的な取り組みが必要になる。「出会いの場づくり」にも増して「結婚して住みたい街づくり」こそが、行政の使命ではないだろうか。

三上 直行 東洋経済 記者

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みかみ なおゆき / Naoyuki Mikami

1989年東洋経済新報社入社。これまで電機などを担当。現在は、冠婚葬祭業界を担当。

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