独立して失敗する人は期待値がわかってない どうせやるなら勝率の高いゲームをやろう

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もし給与水準の高い大企業や有名企業に就職すれば、さらに高い期待値を見込めます。上場企業約3000社の平均生涯年収は、2015年の調査で2億1785万円。上位10社に限れば、平均生涯年収は4億円を超えています。

200万円vs.2億円。

この比較を見れば、ベンチャー企業を創業するという選択は、極めて期待値が低いことがわかります。

大数の法則が働く域を超えれば、起業も選択肢に入る

では、起業をあきらめて就職するしかないのかといえば、そうではありません。期待値を知ることは、あくまで「一般的なやり方をしていたら、こうなりますよ」という1つのシナリオを確認する作業にすぎません。

それを理解したうえで、「大数の法則を脱して、自分で成功の確率を上げるにはどうすればいいか」を考え、「これなら期待値を大きく超えられる」と確信できたら、起業する道を選択すればいい。私はいつも若い人たちに、そうアドバイスしています。

サイコロを振って「1」が出れば勝てるゲームがあるとして、一般的な勝率は6分の1です。でも、「1」の面が2つも3つもあるサイコロを作れば、勝率は2倍、3倍と上がります。あるいは、サイコロを変形させて「1」が出やすくなる細工をすれば、勝率をさらに上げることができるかもしれません。つまり、ほかの人が普通のサイコロを振っている中で、自分だけが「1」の出やすいサイコロを振れば、大数の法則が働く域を超えられるということです。

これを起業に当てはめるなら、会社を作ったときに有利になるスキルや経験、資金や人脈などを得ることで、「1」の目が出る確率をどんどん上げていくことができます。

これらをすでに学生時代に得ているなら、就職せずにいきなり起業するという選択肢もあるでしょう。自分はまだ有利なサイコロを手に入れていないと思うなら、いったん企業に就職して経験を積んだり人脈をつくったりして、「これなら勝てる」と思える時が来たら起業する、という選択肢も見えてきます。いずれにしろ、重要なのは「今の自分は大数の法則を脱し切れているか」を正しく見極めて意思決定することです。

この"サイコロの変形"という戦略を徹底しているのが、誰あろうソフトバンクグループの孫正義社長です。

有利なサイコロを振るには、自分が成長ドメインにいることが必須である――これが孫社長の揺るがぬ基本理念です。自分たちがいる市場そのものが成長していれば、それだけ当たりの目が出やすいからです。

孫社長がIT分野を選んだのは、「ムーアの法則」に従ったからです。これは、「半導体の集積密度は、1年半から2年で倍増する」という経験則です。

インテルの共同創業者であるゴードン・ムーアが1960年代に唱えたものですが、現在に至るまでこの法則は破られることなく、ITの世界では技術革新が続いています。インターネットとモノをつなげたIoTが登場したように、IT技術がカバーする範囲は広がり続ける一方です。だからこそ、孫社長は「IT業界は永続的に発展する」と確信し、ソフトバンクがこのドメインに居続けることにこだわるのです。

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