キリンが挑む日本ワインとCSVの未来とは 自社栽培のブドウ畑が多様な生物を育む

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キリングループの一員であるメルシャンのブドウ畑「椀子(マリコ)ヴィンヤード」。かつては遊休荒廃地であったところを、景観に配慮しながら造成された。広大な草原が出現することで絶滅危惧種を含む多様な生き物を育んでいることがわかり、その再生・保全活動が進んでいる。世界で評価される日本ワインづくりと両立するCSV活動としても注目を集めている。

「シャトー・メルシャン」を支える
自社管理畑ならではの挑戦

国産ブドウ100%でつくる「日本ワイン」の需要が伸びている。「ここ10年ほどの間に品質が上がり、国際的な評価も高まっています。海外のワインのまねではない、日本ならではのワインが認められるようになってきたのです」と、シャトー・メルシャン ゼネラル・マネージャーの松尾弘則氏は手応えを語る。

シャトー・メルシャン
ゼネラル・マネージャー

松尾 弘則
「良いワインをつくるには、良いブドウが必要であることに変わりはありません」

メルシャンのルーツは1877年に設立された日本初の民間ワイン会社・大日本山梨葡萄酒会社。140年あまり前、2人の青年がフランスで学んだブドウ栽培・ワイン醸造を生かして、日本ワインづくりが始まったのである。1949年には『メルシャン』ブランドが誕生。70年に『シャトー・メルシャン』が誕生した。

さらに、魅力あるワインのためには、高品質なブドウを育てる風土をつくることから始めなくてはならないと考え、契約農家の協力のもと76年「桔梗ヶ原(長野県塩尻市)」に欧州系のブドウ品種・メルローの栽培に着手。以来、そこで生まれたメルシャンのワインはさまざまな国際コンクールで何度も賞を受けるなど、国内外に日本ワインの可能性を示し続けている。

松尾氏は「良いワインをつくるには、良いブドウが必要であることに変わりはありません」と話す。現状は、急伸する日本ワインの需要に対し、原材料となる国産ブドウの供給が追いつかない状況になってきているという。

メルシャンではそこで2003年、長野県上田市丸子地区陣場台地に自社管理畑「椀子(マリコ)ヴィンヤード」を開園した。かつては盛んだった養蚕のための桑畑が広がっていたが、近年は遊休荒廃化していた場所である。

椀子ヴィンヤードの景色と「シャトー・メルシャン マリコ・ヴィンヤード オムニス」

「台地の上からは、浅間山、蓼科山など360度見渡せる眺望が広がっています。年間降水量も少なく、当社の求める気象条件にまさに合致した場所です」と松尾氏は語る。

土地所有者や地域住民、行政などの協力を得て、本来の地形や景観に配慮しながらブドウ畑として造成し、約20ヘクタールに及ぶ広大な自社管理ブドウ畑が誕生した。

「ブドウの品質向上に向けて、さまざまな挑戦ができるのも自社管理畑の特長です。すべてのブドウを垣根仕立てで栽培しているのもその一つです」(松尾氏)

ヴィンヤードが「草原」になり
生態系の保全に貢献

かつては「日本でのブドウ栽培は棚でなければできない」というのが常識だった。メルシャンはそれを打ち破り、1984年、自社畑「城の平ヴィンヤード(山梨県甲州市)」で、赤ワイン用ブドウ品種のカベルネ・ソーヴィニヨンを垣根仕立てで栽培開始している。「椀子ヴィンヤード」はその経験を受け継ぐ。

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