「服装へのダメ出し」に怒る人が見落とす視点 「正解がない」からこそ紛糾する

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過去にも、部下の親御さんのご葬儀に、複数の管理職で参列したとき、ネイルを落とさずにきた同僚を見て、「これはありなの?」と思ったことがあります。ただ、心の中で眉をひそめている自分を自覚しながら、顔にも言葉にも出しません。「こういう人なんだな」と思うくらいで、私には実害がなく、その人の問題だからです。

ただ、謝罪や「ネガティブな印象を絶対に与えたくない場」に、自分基準のおしゃれをして現れる人がいると、「この人とはもう仕事できないな」と思うことはありました。一緒に動くスタッフなどであれば注意するかもしれないですが、相手方であれば、その場では顔に出さずとも、それ以降の信頼関係に影を落とすことがあるかもしれません。つまり、自分でも気づかない間に、何も言葉にされずに、外見のことで損をしてしまうことがある、ということです。

まずは受け止めてみたほうが得

だとすれば、自分の基準とは違っていたとしても、なんらかの助言を受けたら、「そういう考え方もあるんだな」「自分はこう見られてしまったのだな」とまずは受け止めてみたほうが得になるような気がします。注意してくれたのに、ふてくされて二度とアドバイスしてもらえなくなれば、致命的なTPO違反をしてしまうかもしれないですしね。

その役員の価値観では、その場はテーラードがマストだったのでしょう。趣味や嗜好ではなく、冷静に話せば、きっと、「気難しいお客様だから」とか「自分が逆の立場なら〇〇と感じるから」とか、わかるように、理由を説明できるのではないかと思います。

もし言い合いの雰囲気のままで会話が終了しているのであれば、同行してくれたお礼メールとともに、自分の態度は詫びておいて、もう1度理由を聞いてみてはどうでしょうか。そして、法人営業を10年も頑張ってきて、会社の大事な取引先も任されているのであれば、アドバイスを受け入れて、1着、自分に似合うダークなテーラードスーツを買ってみたらどうかなと私は思います。ワンピースの上に着たり、ジャケパンでも活躍しそうなジャケットを選んでみては? それでも納得いかないのであれば、会社に置いておいて女性営業で着まわせるようなスーツを、数名で1着用意しておくことにするのもいいかもしれないですね。「経費でもいい」というのは役員の売り言葉に買い言葉のような気がするので、あまり深追いしないほうが役員の顔も立つような気がしますよ。

どちらにしても、こんなことで損をしたらもったいないので、これからは、役員や上司と営業に行くときは、打ち合わせのついでに、「こういう格好で行こうと思いますが、失礼はないでしょうか?」などと確認してみてはどうでしょうか。私が営業管理職をやっていた頃は、メンバーとの服装の打ち合わせは欠かしませんでした。商談にはシナリオと演出が必要ですから、演者として大事な打ち合わせテーマだと常々言っていたと思います。

女性営業にとってのスーツは、衣装だと私は思っています。似合うものを身に着けたい、自分らしいおしゃれをしたい、という気持ちはわかりますが、基本的には、場面とテーマで着こなしは変えるべきであり、「相手の主観」にこそ正解があるのです。「相手」には、商談の相手だけでなく、一緒に商談をつくる社内の相手も含まれるでしょう。

せっかく、これまでの努力を認められて、大事な顧客に、会社の代表として向かっているのですから、「言いにくいことを言ってくれているのだな」と少し素直になって、役員のアドバイスに耳を傾けてみることをお勧めします。

ルールブックがあってそのとおりにすればいいものと違って、服装や身だしなみには、仕事によって変わり、段々に身に付いてくるルールがあると思うのです。偉い人に食ってかかっても詮方ないことのように思えてなりません。試行錯誤しながら、少しずつ、あなたなりのルールを形作っていけたらいいのだと思いますよ。

堂薗 稚子 ACT3代表取締役

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どうぞの わかこ / Wakako Dozono

1969年生まれ。1992年上智大学文学部卒業後、リクルート入社。営業として多くの企業を担当し、数々の営業表彰を受ける。管理職として、多様な雇用形態の組織の立ち上げやマネジメント、『リクルートブック』『就職ジャーナル』副編集長などを経験。2004年第1子出産。2007年当時組織で最年少、女性唯一のカンパニーオフィサーに任用され、事業責任者、「リクナビ派遣」編集長を務める。2010年に第2子出産後はダイバーシティ推進マネジャーとして、社内外女性のメンターを務めつつ、ワーキングマザーで構成された営業組織の立ち上げ、マネジメントを担当し、彼女たちの活躍を現場で強く推進した。経営とともに真の女性活躍を推進したいという思いを強くし、2013年退職。株式会社ACT3設立、代表取締役。女性活躍をテーマに、講演や執筆、企業向けにコンサルティングなどを行っている。2013年2月、リクルート在籍時に東洋経済オンライン「ワーキングマザーサバイバル」連載に登場。FBのいいね!数が6000を超えるなど、話題となった。

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