「かけ算が最強の発想」という大いなる誤解 本質が際立つのはむしろ引き算だ

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何を引けばいいのか。不便益の研究で引き算発想をする際は、「便利な手段」は引いても「経験そのもの」は引かないというルールを設けている。実際問題、「経験」を抜いてしまうと、引き算発想は途端に立ちいかなくなる。

私は、公園からすべてのリスクや冒険を引き算した「ケガなし公園」というのを考えたことがある。安全性をひたすら追求するので、転ぶ可能性がわずかでもある遊具はすべて排除しなければいけない。

たとえばブランコは危険極まりないので当然だめ。砂場すら案外危ない。こうやっていくと、結局すべての遊具がなくなり、「公園から冒険という経験を抜いたら、あまりにつまらなくて子どもたちは遊ばない」という結論に達した。

過剰な引き算をすると、公園における「本質」まで奪ってしまうといえるだろう。遊具体験という「経験」にこそ「公園の冒険性」という本質は潜んでいるのであって、経験を引いてしまうと本質まで削り取ってしまうのだ。

しかし、次の例のように、「手段」を引き算すれば、説得力に欠かせない「本質」と「経験」が強調されるといえる。

「観覧車から窓を引く」ように発想する

大阪の遊園地・ひらかたパーク内に2016年にできた「ロシアン観覧車」では、40台のゴンドラのうち4台は景色を見渡せる窓がない。黒っぽいシートで窓が覆い隠されているのだ。

観覧車は景色を楽しむものだと思われているが、必ずしも変わりゆく景色を眺めることが「経験の本質」とは限らないだろう。

そこで、観覧車のゴンドラから「景色を見る」という手段を引き算すると、「特別な場所で空間をシェアし続ける経験」が残る。「何が本質か」は人によって多少変わってくるが、観覧車を利用する2人組には実はそれが本質だった、ということがわかるかもしれない。

「手段」を引き算して要素を絞ることで、「本質」がより際立つのである。

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