自民党は末期的症候群 「パンと見せ物」の政治だ--片山善博・慶應義塾大学教授

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--官邸に乗り込んだ首相は、周りを官僚に囲まれて、孤独な存在だといわれます。もっと人材を引き連れていくことはできませんか。

それはできると思います。そこで次なる問題ですが、首相になる人が、まったくの準備不足です。

私は旧自治省時代に梶山静六・元自治相の大臣秘書官として仕えましたが、梶山さんには信念があった。梶山さんは陸軍士官学校から軍人を目指しましたが、国が戦争に負けて、自分の人生ががらっと変わったという。やはり、戦争をする国にしてはいけない、日本は平和な国でなければならないと。自分だけでなく、戦争で人生を狂わされた人がこんなにいるではないかというのが、梶山さんが政治家を志した原点なんです。だから、石にかじりついてでも政治をやった。

しかし、今の政治家は二世ばかり。二世の特徴として、先代の地盤を次ぐのがミッションなのです。大方の人は、燃えるような情念とか、良しあしは別として恨みのようなものも含めたモチベーションがない。自分は政治家として、これだけは絶対にやりたいと思うものがないから準備もしていない。普段から自分の政策を実現するための勉強や人脈づくりをしていない。そんなことで総理の職責は務まりません。

--首相を目指す覚悟とは。

政権の座を目指すということは、音楽で言えばオペラのリサイタルのようなものです。オペラ歌手は入念な準備と訓練を欠かさない。それとは対照的に、自民党の総裁は、場末の酒場でカラオケを歌っているようなものです。「今度は僕だ」とか「次はお前歌え」とか、「いや、自分は下手だから」とか、そんなありさまです。福田首相もマイクを握ってみたが、やっぱり下手だった。

カラオケ政治のいけないところは誰でも気軽にマイクを取れるし、誰も大して準備していないことです。

もう一つは、あんな下手くそなのにあいつがマイクを持つなら、俺だってやれるなという気分になることです。この傾向は、竹下登元首相以来、顕著になりましたね。小泉氏だけが例外で、歌いたいと本人が望んでもなかなか歌わせてもらえなかった。それでもとうとうマイクを握ってしまった。それで歌わせてみたら、それなりに聴けるじゃないかということだったのでしょう。

--片山さんは、鳥取県知事として、どのような心構えでしたか。

小さな県の知事のポストであっても、高みに上ると、足が震えそうになることはありましたね。自分の判断ミスによって、多くの人に取り返しのつかないダメージを与えることもあるわけです。たとえば災害対策をきちんとやってきたか、あるいは災害時に的確な判断をして被害を最小限にとどめることができたか、と。県知事のポストでも、高所恐怖症はあるのです。ましてや一国の総理でしょう。カラオケのマイクを握る感覚でやってもらったら困る。

吉田松陰がいみじくも述べているのです。「ああ、幕府、ついに人無し。瑣末のことはなかなかに弁ずる人もいるけれども、大略を述ぶるの人なし」と。自民党がいつまで続くかわかりませんが、自民党が続くかぎりはカラオケ政治です。

(岡田広行 撮影:吉野純治、谷川真紀子 =週刊東洋経済)

かたやま・よしひろ
1951年生まれ。旧自治省勤務、鳥取県知事(2期8年)を経て、現職。主著に『市民社会と地方自治』『災害復興とそのミッション』など

(インタビューは9月上旬に行われました)

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